日本消化器外科学会雑誌
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編集後記
編集後記
江口 晋
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2022 年 55 巻 9 号 p. en9-

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久々に本誌編集後記の執筆依頼をいただいた.前回は2020年4月誌で約2年半前,丁度COVID-19猖獗の始まった頃であったが,まだコロナ禍が終了していないのがもどかしい.前回記に「いずれCOVID-19も過去の話となり,,,」と書いているが,悲しいかなまだ第7波の真最中である.

今回の私の一押し論文は,国立病院機構九州がんセンターの香川らの「筋弁による修復と気道管理の工夫により救命しえた食道癌術後気管膜様部穿孔の1例」である.致死的な合併症の早期診断と再手術の即断,2台の人工呼吸器を用いた綿密な術後管理など著者らのグループの外科治療を中心とした総合力のレベルの高さが伺える.情報共有の意味で大変価値が高いと考えた.

私がかねてより教室員に話していることは下の5つがある.

1.患者が悩んでいる問題を臨床研究のテーマにする.外科医の独りよがりにならない.2.自分・グループのした仕事は,必ず検証する(学会発表と論文作成).検証しなければ自己満足に陥り成長できない.3.‍症例報告を大事にして,それを集積し,論文を作成する.4.レベルの高い綺麗な手術写真・ビデオを撮ることを心がける.レベルの高い写真でなければnew evidenceの説得力が薄い.5.仕事は皆で取り組み短期間で大きくして,大きな成功を分かち合え.本誌は1,3の入り口として非常に重要な役割を果たしていると思う.

前回も記載したが,小生の最初の医学論文筆頭著者は「日本消化器外科学会雑誌」であった.「十二指腸悪性神経鞘腫の1例」1994年27巻1号p. 112–116に掲載された.当時の元島幸一講師(故人),橋本 聡先生に御指導いただき,「ノイヘレンが論文書くこともあるのか」と可愛がってもらいながら,なんとか仕上げた.掲載された際には当時の兼松隆之教授に「自分達が経験した稀有な症例を広く世に伝えて共有することは,外科医としても大切である」とお褒めいただいた.ささやかな成功体験である.

貴重な症例を自分のみの経験で留めず,広く情報共有し,未来の患者さんの外科治療のための地図を作るのもAcademic Surgeon,Academic Societyの役割である.

 

(江口 晋)

2022年9月1日

 

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