日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
人工甘味料の多量摂取が原因と考えられた直腸癌術後回腸ストマからのhigh output症候群の1例
竹元 小乃美江本 慎本間 重紀吉田 雅市川 伸樹松井 博紀谷 道夫高桑 恵美武冨 紹信
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2023 年 56 巻 1 号 p. 20-26

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Abstract

症例は57歳の男性で,1年前からの便通異常を主訴に前医を受診した.直腸癌多発肝転移肺転移と診断され,当科で腹腔鏡下低位前方切除術を施行したが,air leak test陽性のため双孔式回腸ストマを造設した.術後10日目より回腸瘻からの排便量が1日2,000 ml以上となった.止痢薬は奏効しなかったが,術後20日目キシリトール含有の飴を1日12個(キシリトール15.5 g)摂取していたことが判明し,摂取を中止すると回腸瘻からの排便量が1日300~500 ml程度に改善した.キシリトールは人工甘味料の一つで,飴やガムなどに幅広く使用されている.キシリトールには腸管から吸収されにくい性質があり,多量摂取により下痢を誘発することが報告されている.回腸人工肛門造設状態の患者において,人工甘味料がhigh output症候群の原因なりうる可能性を念頭に置く必要がある.

Translated Abstract

A 57-year-old man presented with abnormal bowel movement and was diagnosed with rectal cancer that had metastasized to the liver and lungs. The patient underwent laparoscopic low anterior resection at our hospital. A diverting loop ileostomy was created because an intraoperative air leak test was positive. From postoperative day 10, the patient suffered from high ileostomy output (stoma output ≥2,000 ml/day). Antidiarrheal drugs were administered, but were not effective. On postoperative day 20, the patient revealed that he had been consuming 12 xylitol-containing candies (15.5 g xylitol) per day. The stoma output significantly decreased to 300–500 ml/day right after the patient stopped eating these candies. Xylitol is a common artificial sweetener used in sugar-free confectionery and excessive intake of xylitol is known to cause diarrhea due to its poor absorption. This case suggests that intake of an excessive amount of xylitol can be a cause of high output syndrome for patients with ileostomy.

はじめに

人工甘味料にはさまざまな生理作用が報告されている1).人工甘味料の一つであるキシリトールは,飴やガムなどに幅広く使用されている.キシリトールはヒトの酵素により消化されず,経口摂取したキシリトールの50%は受動拡散により小腸で吸収され2),残りの50%は大腸で腸内細菌のエネルギー源になるとされている3).キシリトールの腸管から吸収されにくい性質は,高浸透圧性の下痢を誘発する可能性がある.今回,人工甘味料が原因と考えられた直腸癌術後回腸ストマからのhigh output症候群の1例を経験したので報告する.

症例

患者:57歳,男性

主訴:便通異常

既往歴:錐体ジストロフィー,高血圧症,脂質異常症

家族歴:兄が膠芽腫で死去

現病歴:1年前からの便通異常を主訴に前医を受診し,多発肝転移と肺転移を伴う直腸癌と診断され,精査加療目的に当科紹介となった.

入院時現症:身長167.6 cm,体重52.8 kg,BMI 18.8.腹部は平坦軟で,直腸診では腫瘤は触知しなかった.

入院時血液検査所見:Hb 11.6 g/dlと軽度の貧血を認めた.また,CEA 9.0 ng/mlと軽度の上昇を認めた.

下部消化管内視鏡検査所見:肛門縁から10 cmに全周性の2型病変を認めた(Fig. 1a).同部位から生検を施行し,病理ではtub2の診断であった.

Fig. 1 

(a) Colonoscopy revealed a type II circumferential tumor 10 cm from the anal verge. (b) Contrast enema showed an apple core sign (black arrowheads) in the RS-Ra rectum with a stricture of 45 mm in length. (c) Contrast CT showed rectal wall thickening with fat stranding (white arrowheads). (d) Liver metastasis in S4/8 of 30 mm in size (white arrow). (e) Nodule in the lower lobe of the right lung (6 mm) (black arrowhead).

注腸造影検査所見:直腸RSからRaに狭窄長45 mmのapple core signを認めた(Fig. 1b).

CT所見:直腸に造影効果を伴う壁肥厚(Fig. 1c)と所属リンパ節腫大を認めた.また,肝S4/8に30 mm(Fig. 1d),尾状葉の下大静脈付近に20 mm,S5に10 mm二つ,境界不明瞭な多発する低吸収域と右肺下葉に6 mmの結節影を認め(Fig. 1e),多発肝転移,肺転移と考えられた.

以上より,直腸癌Ra cT3 N2b M1b(H1 Grade B,PUL1 Grade B),clinical Stage IVb(大腸癌取扱い規約第9版)と診断した.多発遠隔転移については切除可能と判断した.まず直腸狭窄に伴う症状を緩和する目的で原発巣を切除する方針とし,腹腔鏡下低位前方切除術を施行した.

手術所見:臍部に12 mmのカメラポート,右下腹部に12 mm,左右側腹部と左下腹部にそれぞれ5 mmポートを留置し,5ポートで開始した.肝転移は,右葉に2個表面から確認が可能であった.下腸間膜動脈を根部で処理し,左結腸動脈と下腸間膜静脈を同レベルで切離した.腫瘍による炎症のためと思われる直腸後腔の癒着を認めたため,両側下腹神経の温存は困難と判断し,切離した.骨盤内臓神経は温存した.自動縫合器を用いて腹膜翻転部より肛門側で直腸を離断し,自動吻合器を用いてdouble stapling techniqueで吻合した.Air leak testが陽性であったため,縫合補強後に回腸末端から20 cm口側の小腸で双孔式回腸ストマを造設し,手術を終了した.

病理組織学的検査所見:直腸Raに2型腫瘍を認めた.病理診断は,Ra,85×65 mm,環周率89%,tub2,pT3(SS),INFb,Ly0,V1b,BD1,Pn1a,pN1a(1/28),cM1b,pStage IVb(大腸癌取扱い規約第9版)であった.

術後経過:術後1日目より酪酸菌製剤3 g/日,celecoxib 400 mg/日と,もともと内服していたfenofifbrate 160 mg/日,amlodipine 10 mg/日を開始した.術後4日目に食事を開始した.術後10日目より回腸瘻からの排便量が2,000 ml以上となった.便の性状は茶色水様便で,経過中に発熱や炎症反応の亢進を認めなかったため(Fig. 2),腸炎をベースとしないhigh output症候群と診断し,loperamide hydrochlorideを1 mg/日で開始した.術後15日目よりpolycarbophil calciumを1,500 mg/日で追加し,術後18日目までにloperamide hydrochlorideを3 mg/日まで増量したが,回腸瘻からの排便量は1,500 ml/日以上が続いた.内服加療が困難なhigh output症候群と判断し,早期のストマ閉鎖術を予定したが,術後20日目にキシリトール含有の飴を1日12個(キシリトール15.5 g相当)摂取していたことがわかった.術前には摂取しておらず,術後20日目よりキシリトール含有の飴の摂取を中止すると回腸瘻からの排便量が1日300~500 ml程度に改善した(Fig. 2).既往の錐体ジストロフィーによる視力障害により,ストマの自己管理が困難であったため,注腸造影やCTで縫合不全のないことを確認したうえで,本人の希望で術後26日目に回腸ストマ閉鎖術を施行した.その後,CTにて遠隔転移巣の増大傾向を認めた.化学療法後に遠隔転移巣を切除する方針を本人に提示したが,本人が化学療法,遠隔転移巣切除ともに希望しなかったため,best supportive careの方針となった.現在,術後7か月で他院にて経過観察中である.

Fig. 2 

Time course of stoma output after the operation. Oral intake was started on postoperative day (POD) 4. The patient had high stoma output from POD 10 and antidiarrheal drugs were initiated. High output continued until intake of xylitol was stopped on POD 20. Stoma closure was performed on POD 26 at the request of the patient. WBC, white blood cell count; CRP, C-reactive protein.

考察

甘味料は,甘味度または原料によって分類される4).甘味度の基準は20°C,30 g/lのスクロースを1として測定され,原料による分類では,天然甘味料と合成甘味料に分類される(Fig. 34).キシリトールは化学式C5H12O5で表される分子量152.15の糖アルコールで(Fig. 41),主に樺材が原料の天然甘味料であるが,加工が必要であるため通常は人工甘味料に分類される5).また,スクロースとほぼ同様の甘味度を示し4),吸収されたキシリトールは主に肝臓で代謝されるが,最終的にはグルコースとなり,血中に入るか,グリコーゲンとして貯蔵される1)6).本症例においてストマ造設術後のhigh output症候群の原因と考えられたキシリトールは,飴やガムなどに幅広く使用されている人工甘味料の一つであり,飴やガムなどの約2割に使用されている7).キシリトールには,齲歯予防,皮膚のバリア機能の改善,免疫機能の調整などのさまざまな生理作用が報告されている1).キシリトールを含む糖アルコールの多くは腸管から吸収されにくく,キシリトールの過剰摂取(>20 g)は高浸透圧性の下痢を誘発するとされている8).キシリトールの下痢の最大無作用量(下痢を引き起こさない最大摂取量)は,男女ともに0.30 g/kg体重と報告されている9).本症例は,院内で購入したキシリトール含有の飴を1日12個(キシリトール15.5 g相当)摂取しており,患者のキシリトールの下痢の最大無作用量とほぼ同等であるが,回腸ストマ造設例のため,下痢を起こす可能性がある.また,糖アルコール誘発性の下痢の起こりやすさには個人差があり,その感受性の原因の一つに宿主の腸内細菌,特に大腸菌の関与が指摘されており,大腸菌が栄養源としてキシリトールを消費することで,下痢の発症が抑制されるという報告がある10).下部小腸にも大腸菌は常在菌として存在するが,大腸と比較して下部小腸の細菌叢は1,000分の1程度と報告されており11),キシリトールを消費するのに十分な大腸菌は存在しえないと考えられる.そのため,回腸ストマの患者においては,最大無作用量以下の摂取量であっても,キシリトールによる過多の下痢を引き起こしうると考えられる.

Fig. 3 

Classification of sweeteners.

Fig. 4 

Chemical structure of xylitol.

予防的ストマは,直腸癌術後の縫合不全を減少させる目的で造設される12).当科の予防的ストマ造設の適応は,術前放射線化学療法,免疫抑制状態,超低位前方切除術,内肛門括約筋切除術,air leak test陽性としている.通常回腸ストマは,造設後24時間で機能し始め,1日1,200 ml程度の水様便を認めるが,2~3か月をかけて1日500 ml程度まで減っていき,便性状も改善されていく13).回腸ストマからの排便量には個人差があるが,通常1日500~2,000 ml程度であり,食事量,飲水量,消化管分泌に影響される14)15).また,結腸ストマと比較し,腸液が多いため脱水に至りやすく,high output症候群やoutlet obstructionなどの合併症が多いことが報告されている16).本症例には下記の理由により,ストマ造設を回避することが望ましかった.すなわち,①既往に錐体ジストロフィーによる視力障害があり,ストマの自己管理が困難になることが予測されること,②遠隔転移の切除後にも術後化学療法を行うことが望ましく,回腸ストマによる下痢が化学療法の継続を困難にする可能性があることである.最終的に,術中のair leak testが陽性であったため,回腸ストマ造設に至った.本症例では患者の希望により,術後1か月程度で早期に人工肛門を閉鎖したが,術後経過には問題がなかった.予防的ストマの閉鎖時期については議論があるが,当科では術後3~6か月程度で閉鎖することが多く,CTや注腸検査などで縫合不全の所見がなければ,患者のニーズに合わせて早期のストマ閉鎖を検討してよいと考えられた.

High output症候群は,1日2,000 mlを超えるストマからの排液を認め,脱水,栄養不良,電解質異常,腎機能障害などを引き起こす合併症である17).ストマ造設術後のhigh output症候群のリスク因子として,糖尿病,薬剤(急激なステロイドからの離脱やメトクラプラミド内服など),腹腔内感染症,腸炎,術後腸閉塞などが報告されている17)18).High output症候群に対しては,食事管理,経口補液,薬物療法(止痢薬,プロトンポンプ阻害薬,ソマトスタチンアナログなど)による複合的治療が行われる19)20).本患者では,便の検査による感染性腸炎の精査を行っていないため,感染性腸炎が原因であった可能性は否定しきれない.しかし,便の性状,発熱や血液検査上の炎症反応の亢進を認めないこと,経過中に腸炎に対する抗菌薬を使用しなかったこと,キシリトール含有の飴の摂取を中止した日よりストマ排便量の減少を認めたことなどから,感染性腸炎ではなくキシリトールの大量摂取がhigh output症候群の原因と考えられた.医学中央雑誌で1964年から2021年の期間で「キシリトール」,「人工甘味料」,「回腸ストマ」,「high output症候群」,PubMedで1950年から2021年の期間で「xylitol」,「artificial sweetener」,「ileostomy」,「high output stoma」をキーワードとして検索した結果(会議録除く),キシリトールを含めた人工甘味料が原因と考えられた回腸ストマからのhigh output症候群の報告は,我々の知るかぎり認めなかった.キシリトールが薬剤ではない点で,我々医師がその摂取の有無や摂取量に目を向けることが少なく,下痢やhigh output症候群の原因として見落としがちである.病院食だけでなく,患者の間食内容を把握し,必要であれば減量や中止を検討することで,high output症候群の病態把握や症状改善に繋げることができる.High output症候群の原因検索として,キシリトールを含めた糖アルコール含有の飲食物の摂取歴を積極的に患者から聴取することが肝要である.

今回,キシリトールの多量摂取によると考えられた直腸癌術後のhigh output症候群を経験した.回腸ストマ造設後のhigh output症候群は患者のQOLを著しく損ねる合併症であるが,その原因の一つとして人工甘味料の多量摂取を念頭に置く必要があると考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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