日本消化器外科学会雑誌
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ISSN-L : 0386-9768
特別報告
日本消化器外科学会認定施設における男女共同参画の取り組み・実情に関するアンケート調査
大越 香江野村 幸世河原 正樹小林 美奈子阪田 麻裕高須 千絵田中 千恵林 憲吾松永 理絵調 憲北川 雄光
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2023 年 56 巻 8 号 p. 452-467

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Abstract

目的:日本消化器外科学会男女共同参画ワーキンググループ(現:委員会)の活動の効果を評価するために,設立時の日本消化器外科学会専門医制度指定修練施設における男女共同参画の実態を明らかにする.方法:日本消化器外科学会認定施設899施設の指導責任者および事務担当者を対象とし,依頼文を郵送してウェブアンケートに回答を依頼した.期間は2021年6月30日から9月14日である.男女共同参画や労働環境に関して,事務担当者には病院の整備状況を,指導責任者には消化器外科医の現状を質問した.結果:医師の1日の労働時間が8時間を超えないように配慮しているのは,指導責任者:32.0%,事務担当者:68.6%,当直の翌日は休みであるのは指導責任者:26.5%,事務担当者:27.9%であった.指導責任者によると,複数主治医制は64.9%,消化器外科医の有給取得は1年に5日以上10日未満が最多であり,中央値は6日であった.女性および男性の育休取得者がいた施設はそれぞれ22.6%,11.9%であった.女性の育休期間は1か月以上6か月未満が45.9%,6か月以上12か月未満が33.8%であったが,男性の71.8%が1か月未満であった.結語:多くの施設において,男女共同参画や労働環境改善のために努力している途上であるが,その現状は未だ不十分であった.委員会として,男女共同参画を進めるための活動を継続していく.

Translated Abstract

Purpose: The purpose of this study is to examine gender equality in training facilities for board certification designated by the Japanese Society of Gastroenterological Surgery at the time when the Gender Equality Working Group (now the Committee) was established, and to provide a benchmark for evaluating the effectiveness of the Working Group’s subsequent activities. Methods: Letters were mailed to supervisors and administrative staff at 899 facilities certified by the Japanese Society of Gastroenterological Surgery as requests to respond to a web-based questionnaire from June 30 to September 14, 2021. Administrative staff were asked about hospital policies on gender equality and the working environment. Gastroenterological surgeons were asked about the current situation regarding gender equality. Results: 32.0% of supervisors and 68.6% of administrative staff reported policies to ensure that physicians do not work more than eight hours per day, and 26.5% of supervisors and 27.9% of office managers gave physicians the day off following a night shift. A system of multiple attending physicians was reported by 64.9% of supervisors, and gastroenterological surgeons took 5–10 days of paid leave per year, with a median of six days. Among facilities, 22.6% and 11.9% reported that female and male surgeons, respectively, had taken childcare leave. Among female surgeons, 45.9% of those who had taken childcare leave had taken between one and six months, and 33.8% had taken between six and 12 months, while 71.8% of male surgeons who had taken childcare leave had taken less than one month. Conclusion: The current situation remains inadequate, although facilities are trying to improve gender equality and the working environment. The Committee will continue to promote gender equality in all facilities affiliated with the Japanese Society of Gastroenterological Surgery.

はじめに

世界経済フォーラムのGlobal Gender Gap Report 2022によると,日本は146か国中116位1)と例年と変わらず悲惨な順位であった.特に経済や政治分野での評価が低く,意思決定の場に女性が少ないことが順位を下げる大きな要因と言われている.また,2018年には女子医学部受験生入試差別が明らかになったが,これを容認する声も多く2),教育分野すら真に平等だったのか疑問である.

あらゆる分野で男女共同参画を進めることが日本の喫緊の課題であるが,ジェンダー不平等がなかなか改善されない日本全体の傾向と,女性医師が管理職や指導的立場につくことが極めて少ない現実は合致している.日本消化器外科学会の女性会員の割合は7.1%(2022年,日本消化器外科学会事務局調べ)であるが,指導的立場になりうる年代の女性消化器外科医は極めて少数である.すなわち,消化器外科学会員数における年代別女性会員の比率を見ると,30歳未満は20.2%,30歳以上40歳未満は14.1%であるのに対し40歳以上50歳未満は9.2%,50歳以上60歳未満は2.9%,60歳以上は0.9%と極めて少ない(Fig. 1).若手会員は増加しつつあるとはいえ,指導的立場になりうる年代の女性消化器外科医自体がそもそもほとんどいないことがわかる.

Fig. 1 

消化器外科学会員数に対する年代別女性会員の比率(2022年,日本消化器外科学会事務局調べ)

このような状況を打開するため,日本消化器外科学会は,学会の男女共同参画を促進することを目的として,2021年9月に男女共同参画ワーキンググループ(以下:WG)を設立した.北川雄光理事長のリーダーシップのもと,日本消化器外科学会の理事や評議員に女性の参画を促進することが決定し,WGではその在り方について議論を重ねた.さらに総会の男女共同参画セッションを提案し,新たに作成したHPで情報発信をするなどの活動を行っている(HP:https://www.jsgs.or.jp/diversity/).2022年7月にWGは正式に男女共同参画委員会(以下:本委員会)となった.

目的

WGが活動を開始するにあたり,WG設立時の日本消化器外科学会専門医制度指定修練施設(以下,認定施設)における男女共同参画の実態を把握しておくことが必要であると考えた.今後,様々なアクションを通じて男女共同参画を推進し,ジェンダー・ギャップの解消に取り組んでいくことになるが,それらの効果を評価するためには,活動開始の状況を把握しておく必要がある.また,その結果を踏まえて,WGの今後の活動において優先的に実施すべき点を明らかにすることができる.

そこで,各認定施設の消化器外科医の実情を知るために,施設指導責任者(消化器外科医)を対象として,次に各認定施設の病院としての制度を知るために,事務担当者を対象として,それぞれ別のアンケートを行うこととした.

対象と方法

日本消化器外科学会認定施設899施設の指導責任者および事務担当者を対象とし,消化器外科学会事務局より依頼文を郵送し,ウェブ上で回答を依頼した.回答は無記名かつ施設名の記載なしとした.したがって,回答するかどうかの自由と匿名性が担保されており,個人情報も含まれないため,倫理審査は不要であると判断した.

調査期間は,2021年6月30日から9月14日の間であった.事務担当者には男女共同参画や労働環境に関する病院の整備状況を,指導責任者には男女共同参画や労働環境に関する消化器外科医の現状を質問した.

結果

日本消化器外科学会認定施設899施設の指導責任者及び事務担当者に依頼文を郵送したところ,指導責任者328名(36.5%),事務担当者140名(15.6%)より回答があった.

1. 病院の種別・病床数・常勤医師数・消化器外科専門医

指導責任者及び事務担当者回答の病院の種別・病床数をそれぞれTable 1に示した.また,指導責任者回答分より,各施設における常勤の消化器外科専門医数,指導医の男女別人数の分布を示した(Fig. 2).男性の専門医・指導医が0人だったのはそれぞれ3施設(0.9%)および2施設(0.6%)だったが,女性の専門医・指導医が0人だったのは252施設(76.8%)および296施設(90.2%)にもおよんだ(Fig. 2).

Table 1  病院種別および病床数
指導責任者回答分 事務担当者回答分
病院種別 n=328 % n=140 %
大学病院 69 21.0% 32 22.9%
国立病院(厚生労働省/独立行政法人国立病院機構/独立行政法人労働者健康福祉機構など) 27 8.2% 8 5.7%
公立・公的・社会保険関係法人の病院(都道府県/市区町村/地方独立行政法人/日本赤十字社/済生会/国民健康保険団体連合会など) 141 43.0% 58 41.4%
一般病院(公益法人/医療法人/社会福祉法人など) 84 25.6% 39 27.9%
ハイボリュームセンター(国立,各県立のがんセンターなど) 6 1.8% 0 0.0%
その他 1 0.3% 3 2.1%
施設全体の病床数 n=328 % n=140 %
~100床 0 0.0% 0 0.0%
101~300床 70 21.3% 31 22.1%
301~500床 127 38.7% 51 36.4%
501床~ 131 39.9% 58 41.4%
Fig. 2 

常勤の男女別専門医・指導医の分布(指導責任者回答)

2. 相談窓口

事務担当者回答によると,院内にパワーハラスメント・セクシュアルハラスメント(パワハラ・セクハラ),就労・キャリア,メンタルヘルスに関する相談窓口が存在する割合はそれぞれ96.4%,97.1%,50.0%,であった(Fig. 3).

Fig. 3 

相談窓口の有無(事務担当者回答)

3. キャリア支援

復職支援体制(産休・育休からの復帰時のトレーニングや勤務時間調整など)が整備されているのは指導責任者回答では54.3%,事務担当者回答では85.0%(Fig. 4a),遠隔教育体制が整備されているのは指導責任者回答では29.0%,事務担当者回答分では60.7%であった(Fig. 4b).

Fig. 4 

a: 復職支援・遠隔教育体制の有無:復職支援体制が整備されていますか?(産休・育休からの復帰時のトレーニングや勤務時間の調整) b: 復職支援・遠隔教育体制の有無:遠隔教育体制が整備されていますか?(オンライン・カンファレンスやe-learningなど)

4. 労働時間の管理・勤務体制

事務担当者回答によると,医師の労働時間の記録が管理されている:98.6%,雇用契約書もしくは労働条件通知書を医師に渡している:83.6%,時間外労働を行うにあたっての労使協定(36協定)を締結し,労働基準監督署に届け出を行っている:98.6%,36協定や就業規則は医師に対しても周知されている:92.1%であった(Fig. 5).

Fig. 5 

医師の労務管理(事務担当者回答)

医師の1日の労働時間が8時間を超えないように配慮していると回答したのは,指導責任者回答:32.0%,事務担当者回答:68.6%(Fig. 6a),当直の翌日を休みにしているのは指導責任者回答:26.5%,事務担当者回答:27.9%であった(Fig. 6b).労働時間が8時間を越えないように配慮している内容について,指導責任者が自由回答で述べたことを項目ごとにTable 2にまとめた(内容が重複している回答は代表的なものを選択し,まとめた).

Fig. 6 

a: 労働時間調整:1日の労働時間が 8 時間を超えないように配慮されていますか? b: 労働時間調整:当直の翌日は休みですか?

Table 2  労働時間が8時間を越えないための具体的な配慮の内容
時間外の対応 時間外は当番・オンコール制にしている.
基本的に時間外労働の命令はない.
時間外対応は最低限の人数で対応する.
当直医に引き継ぐ.
業務を時間内に カンファランス,会議,委員会などを時間内に行う.
業務の短時間集中化.
基本9~17時.
夕方のカンファレンスは週に1回に限定,それ以外は早めに解散する.
会議や午後回診をなるべく17時以降に行わないようにしている.
勤務時間管理 時間外勤務表自己申告.
出退勤時間の記録.
定期的に時間外のチェックがされている.
病院から労働時間が長いと指摘されている医師は手術途中でも帰宅できるように配慮.
勤怠管理にて時間外勤務時間が一定を超えている医師は産業医が指導する.
勤務時間の積算を科長が把握できる.
時間外で緊急手術すれば,翌日の勤務を配慮している.
月曜日に全員についてその週の超勤の予定を決める.
時間外勤務時間を毎月知らせて,指導している.
長時間になる場合は休憩を入れる.
緊急手術後に適宜休暇を与える配慮.
昼休みをとってもらう.
労働時間が8時間を超えないように気を使い,声がけをする.
状況に応じ適宜半休・早退などをできるように業務調整・協力をしている.
手術日以外では,余程な理由がない限り時間外手当がつかないので早く帰るように指導.
連続して呼び出し当番にならないように配慮している.
業務の軽減 委託可能業務の代行など.
余計な仕事の排除.
業務の分担・タスクの分散 時間外業務の分担の促進.
担当医が特定の個人に重ならないように配慮している.
業務内容の調整.
休日は1名が回診.
帰宅を促す 勤務終了時間には,早い帰宅を促す.
緊急手術や当直明けなどは帰宅時間を早めている.
仕事のない場合は早期帰宅を促し,必要であれば代診もする.
当直翌日 当直の翌日の休業の推進.
当直明けの半休.
当直明けの時短.
当直明け等の翌日はすべて超勤となり,勤務しないよう指導.
グループ診療の推進 主治医制だが,バックアップ体制の充実.
チーム制・複数主治医制の導入.
グループ制と主治医制のミックス.
消化器外科医全体で協力して時間内に仕事を完遂するように配慮.
手術 長時間手術は交代制.
長時間手術は必ず朝一番から開始する.
時間内に終了できるような手術時間設定をする.
手術時間の短縮.
予定手術スタートを午前中に設定する.
上司 上司の労務管理.
上級医が時間内に業務を終了するように努力し,規範を示す.
裁量労働制 自由裁量を許可している.
変則労働制の導入.
育児・介護への配慮 3歳未満の子の養育,家族の介護を行っている場合の時間外勤務免除可能.
小学校就学前の子の養育又は家族の介護を行っている場合の深夜勤務免除可能.
妊娠中及び産後1年未満の場合,時間外勤務,休日勤務又は深夜勤務免除可能.

指導責任者回答によると,複数主治医制を導入している施設は64.9%であり,消化器外科医の有給休暇取得は5日以上10日未満が最多であり,中央値は6日であった(Fig. 7).

Fig. 7 

主治医制導入・有給取得状況(指導責任者回答)

5. 産前産後休業・育児休業

事務担当者回答によると,産前産後休業(以下,産休)や育児休業(以後,育休)が就業規則で定められている:100%,医師も育休を取得している:95.0%であり,病院全体としては産休や育休の制度が確立していた.一方で,指導責任者回答によると女性の産休取得者がいた:28.7%,女性の育休取得者がいた:22.6%,男性の育休取得者がいた:11.9%という回答であった(Fig. 8).育休を取得した医師のうち,女性の育休取得期間は1~6か月が45.9%,6~12か月が33.8%であったが,男性は1か月未満が71.8%であった(Fig. 9).また,女性の介護休業取得者がいた:1.2%,男性の介護休業取得者がいた:0.6%であった(Fig. 10).

Fig. 8 

産前産後休業・育児休業について(事務担当者・指導責任者回答)

Fig. 9 

女性・男性の育休取得期間(指導責任者回答)

Fig. 10 

女性・男性の介護休業取得(指導責任者回答)

6. 妊娠などに対する配慮

指導責任者回答によると,産前休業を6週間全て取得できる:38.4%,産後休業を8週間全て取得できる:39.3%,妊娠中の女性消化器外科医に対する勤務時間上の配慮がある:88.4%,本人が申告すれば妊娠中の当直業務を免除される:98.5%,不妊治療に関する休暇や勤務時間上の配慮をしている:48.2%であった(Fig. 11).

Fig. 11 

妊娠などに対する配慮(指導責任者回答)

7. 保育・学童などの設備

事務担当者回答分によると,病後児保育あり:50.0%,夜間の保育体制あり:52.9%,休日の休日の保育体制あり:47.9%,学童保育あり:13.6%であった(Fig. 12).なお,これらの設備がある医療機関において,職種や雇用形態によって利用制限があると回答したのはそれぞれ25.7%,29.7%,26.9%,21.1%であった(Fig. 13).

Fig. 12 

育児支援について(事務担当者回答)

Fig. 13 

施設利用資格について(事務担当者回答)

8. 育児に対する配慮

指導責任者回答によると,消化器外科医が子どものイベントに参加できるような配慮をしている:82.0%,消化器外科医が子どもの急な体調の変化にも柔軟に対応できるような配慮をしている:83.2%であった(Fig. 14).

Fig. 14 

子どものイベント・発熱時対応(指導責任者回答)

考察

今回の調査によって,多くの施設で苦慮しながらも男女共同参画や労働環境改善に向けて努力している途上ではあるが,その現状は未だ不十分であることが明らかになった.

1. 消化器外科専門医・指導医

女性消化器外科専門医や指導医がいない施設はそれぞれ76.8%,90.2%にのぼった(Fig. 2).Fig. 1で示したように,中堅以上の年代の女性消化器外科医が少ないこともあり,専門医や指導医に至る層がまだ薄く,施設にほとんどいないのであろう.女性会員に占める専門医および指導医の割合は,それぞれ29.8%,11.2%(1,472名中438名および165名),男性会員に占める専門医および指導医の割合は,それぞれ45.3%,35.0%(17,994名中,8,151名および6,300名)である(2022年12月現在,日本消化器外科学会事務局調べ).会員の年齢分布が男女で異なるため一概に比較はできないが,今後の女性の専門医・指導医取得に期待したい.

2. 相談窓口

ほとんどの施設にセクハラ・パワハラ,メンタルヘルスに関する相談窓口があった(Fig. 3).実際にどれくらい利用実績があるのかは不明であるが,困った場合にはこうした窓口で相談が可能である.一方で,就労・キャリア支援の窓口があるのは半数にとどまった(Fig. 3).就労・キャリアに関する窓口は一般病院では少なく,医師が所属する医局や学会などがその役割を果たすべきなのかもしれない.

3. キャリア支援

産休・育休からの復帰時のトレーニングや勤務時間調整などの復職支援が整備されているのは指導責任者回答では54.3%,事務担当者回答では85.0%(Fig. 4a),遠隔教育体制が整備されているのは指導責任者回答分では29.0%,事務担当者回答分では60.7%(Fig. 4b)と,いずれの項目にも回答に乖離が見られた.病院全体で対策をしていたとしても,現状消化器外科医としての専門性を担保した復職支援や遠隔教育体制は十分に整備されているとは言い難い.キャリア支援は病院が個々に行う医師としてある程度普遍的な部分と,所属する医局や学会などがサポートする専門的な部分の両方が必要であると思われる.本委員会では消化器外科学会の教育委員会や,若手会員の支援に関する業務を行うUnder 40委員会などと協働しつつ,消化器外科医のキャリア支援を進めていきたいと考えている.

4. 労働時間の管理・勤務体制

事務担当者回答によると,多くの施設において医師の労働時間の記録が管理されており,雇用契約書もしくは労働条件通知書を医師に渡しているという結果であった.また,9割以上の施設で労使協定(36協定)を締結し,労働基準監督署に届け出を行っており,36協定や就業規則は医師に対しても周知されていると回答していた(Fig. 5).しかし,実際のところ,外科医はそれらの内容を把握しているであろうか.今一度,自分の勤務先との契約書や就業規則,36協定の内容について把握されたい.

「医師の1日の労働時間が8時間を超えないように配慮していますか?」という問いに対しては,事務担当者回答では68.6%が「はい」と回答していた一方で,指導責任者回答ではその半分以下の32.0%が「はい」と回答するにとどまり,乖離が見られた(Fig. 6a).病院全体としては労働時間短縮を心がけていても,実際の消化器外科の現場では長時間労働を容認せざるをえない現状が伺える.一方で,指導責任者回答で労働時間が8時間を越えないように配慮している内容について様々な工夫が報告された(Table 2).会議やカンファレンスを業務時間内に行う,複数主治医制によるグループ診療,定時を過ぎた後の業務をオンコール担当医又は当直医が引き継ぐ,当直明けの午後を半休とする,などである.なお,長時間手術を朝一番から開始する,分担して行うなど,手術に関する工夫も見られた.実際に複数主治医制を導入している施設は64.9%であった(Fig. 7).指導責任者回答分も事務担当者回答分も同様に7割以上の施設で当直翌日は休みではなかった(Fig. 6b).消化器外科医の有給休暇取得の中央値は年6日であった(Fig. 7).

5. 産前産後休業・育児休業・介護休業

事務担当者回答によると,当然ながら100%の施設で産休や育休が就業規則で定められおり,95.0%の施設で医師も育休を取得していた(Fig. 8).病院全体としては産休や育休の制度が確立していることがわかる.一方で,指導者回答によると,女性の産休取得者がいた:28.7%,女性の育休取得者がいた:22.6%,男性の育休取得者がいた:11.9%であった(Fig. 8).なお,育休取得に関する数値は男女で単純に比較はできない.過去に女性消化器外科医がいたことのない施設では,女性がいたが取得しなかったのか,女性がいなかったのか,この設問では区別できないからである.一方で,過去に男性消化器外科医のいたことのない施設はないと考えられる.

男性の育休期間はほとんどが1か月未満であったのに対して,女性は1か月以上6か月未満が45.9%,6か月以上12か月未満が33.8%であり(Fig. 9),男性の育休期間が圧倒的に短いことが分かる.つまり,育児休業を取得する男性は少なく,取得してもごく短期間であった.男性の労働時間が長く家庭にコミットすることが少ない現状社会状況では,男女の性別分業が固定化されてしまっており,出産後の女性は消化器外科医としての修練を積むには不利かもしれない.男性の育休取得促進と,女性の産休・育休中の手術技術維持・向上のための対策は今後の最大の課題である.

今回の調査では介護休業取得者はほとんどいなかったが,高齢化が進む昨今,介護も外科医の勤務継続に障壁になる可能性が高く,引き続き注視していきたい(Fig. 10).

6. 妊娠などに関する配慮

産前休業については,出産予定日の6週間前(双子以上の場合は14週間前)から,労働者が請求すれば取得できることになっている(労働基準法第65条).産後については,そもそも出産の翌日から8週間は就業することができない.ただし,産後6週間を経過後に本人が請求し,医師が認めた場合は就業することができる.(労働基準法第65条).また,契約社員やアルバイト・パート等の有期契約労働者にも全て適用されるため,妊娠した女性消化器外科医が常勤であれ非常勤であれ,本人の求めに従って休業できる.したがって,指導責任者に対する「産前休業を6週間全て取得できますか?」,「産後休業を8週間全て取得できますか?」という質問はややトリッキーではあるが,法的には「はい」という回答しか存在しないはずである.しかし,実際には「産前休業を6週間全て取得できますか?」「産後休業を8週間全て取得できますか?」という質問に対して「はい」と回答したのはそれぞれ38.4%,39.3%に過ぎなかった.つまり,産前産後休業に関して十分に周知されていなかったことがわかる.あるいは,部下に産休を取得させられるような労働環境ではないという気持ちの表出であったのかもしれない.同様に,労働基準法第66条によると,妊産婦が請求した場合には,時間外労働,休日労働又は深夜業をさせることはできない.したがって,「妊娠中の女性消化器外科医に対する勤務時間上の配慮がありますか?」という質問に対しても,回答はすべて「はい」でなければならないはずであるが,実際に「はい」と回答したのは88.4%にとどまった.これからの指導責任者は,労働基準法に基づいた労務管理ができるように知識を得ておく必要がある.

当直業務についてはほとんどの指導責任者が免除可能と回答しており,状況に応じて柔軟な対応をさらに期待したい.

不妊治療に関する休暇や勤務時間上の配慮をしていると回答したのは48.2%と半数に満たなかった(Fig. 11).不妊治療については,なかなか言い出しにくいきわめて個人的な問題であるが,要望があれば対応を期待したい問題である.また,男性女性どちらにとっても必要な場合がある.就業規則などに定められていると利用する側にとっては利便性が高いかもしれない.

7. 保育・学童保育などの整備

半数程度の施設で病児・病後児保育,夜間の保育体制,休日の保育体制ありという回答であった(Fig. 12).しかし,これらの2~3割程度の施設において,利用可能な職種や雇用形態に制限があると回答していた(Fig. 13).保育の制度があるなら,職種や雇用形態を制限せず,広く利用者を募った方が利便性は高まる.非常勤であっても勤務日は利用可能にするなどの対応は可能であろう.

学童保育があると回答したのは13.6%にとどまっており(Fig. 12),「小1の壁」が生じている可能性がある.「小1の壁」とは,子どもが小学校に入学すると保育園時代よりも子どもを預けられる時間が短くなるため,親が働きにくくなり,仕事と育児を両立させにくくなることをいう.保育園児から小学1年生になったとしても,家で子どもだけで過ごさせるわけにはいかず,必ず大人の目が必要である.平日放課後,土日や祝日,夏休み期間中などに利用可能な学童保育の必要性は高い.また,上の子が病院の保育施設を利用できなくなると,下の子はまだ利用可能な年齢であっても利便性が下がって院内保育の利用のメリットが減る.小1の壁をスムーズに乗り越えるサポートが必要であり,院内の学童保育はその一助となりうる.

8. 育児・介護などへの配慮

2014年,育児支援が厚いことで知られていた資生堂が,育児中の女性社員にも土日・休日勤務を要請したことが話題となった.手厚すぎる育児支援は性別分業を強化し,男性配偶者の育児参画の機会を減じ,育児中の女性社員をマミートラックに陥らせる可能性すらある3).保育・学童保育の拡充は重要ではあるが,女性医師支援として育児支援を前面に出し過ぎると,男女の性別役割を拡大・固定化するリスクがある.大学病院で育児支援を中心とした女性医師支援を実施しても,女性教官の増加にはつながらなかったという報告もある4).育児支援は女性のためではなく,全ての親に対して与えられるべきである.

以上のように,日本消化器外科学会認定施設における男女共同参画の達成に関する現時点での到達点および今後の課題が明らかになった.

ここで,男女共同参画を推進するにあたり,重要なポイントが3点ある.家庭内男女共同参画,ジェンダー・バイアスの言語化,アクティブ・アクションによるジェンダー・ギャップの解消である.

9. 家庭内男女共同参画

総務省「社会生活基本調査」を元に作成された男女共同参画白書 令和2年版によると,妻の「家事・育児・介護時間」は,共働き世帯においては1976~2016年の40年間を通じて1日あたり250~260分の間で推移しているが,夫有業・妻無業世帯においては444分から413分に減少している.夫の「家事・育児・介護時間」は,妻の就業状況により差が無く1986年当時の20分弱から増加して2016年には40分前後となっている.共働き世帯の夫と妻を比較すると,妻の家事・育児・介護時間は夫の6倍と圧倒的格差は変わらない5).社会は女性に家事負担を課して,男性に長時間労働を強いている.

同様に,女性医師の多くが主たる家事・育児などを担っている.女性医師は,配偶者がいると労働時間が短くなり,男性医師は労働時間が延長する傾向がある.また,子どもがいる女性医師の労働時間の短縮は週6時間にもなったと報告されている6)

強調したいのは,働き方改革の実現によって女性医師の問題も自然に解決するという主張は疑わしいということである.ケア責任が女性に偏ったまま労働時間を短くしても,男性の家庭でのケア分担増加につながるとは限らない.社会生活基本調査の解析によると,男性の就労時間とケア時間には有意な相関がみられず,就労時間が短くてもケア時間は延長しなかった7).女性消化器外科医が活躍するためには,家庭や職場を含めた様々な場面での男女共同参画(ジェンダー・ギャップの解消)と働き方改革がいずれも不可欠な両輪であり,必ず同時に進めていかなければならない.

10. ジェンダー・バイアスの言語化

2021年の内閣府男女共同参画府のアンコンシャス・バイアスに関する調査研究では,20代から60代の全国の男女の性別役割意識の上位2つは「女性には女性らしい感性があるものだ」「男性は仕事をして家計を支えるべきだ」というものだった.また,実際に性別に基づく役割や思い込みを決めつけられた経験は男性より女性の方が多く,その経験の中では「家事・育児は女性がするべきだ」「女性は感情的になりやすい」「受付,接客・応対(お茶だしなど)は女性の仕事だ」という項目が多かった8).こうした性別に関するアンコンシャス・バイアスは性差別に結びつきやすい.

性別が外科医の評価にどのような影響を与えるかを調査した研究もある.オンラインのクラウドソーシングを用いた調査研究によると,女性外科医は男性外科医より温厚であるが能力が低いと評価されというものである9).当然,実際には女性外科医が男性外科医よりも思いやりや配慮があるとは限らず,男性外科医が必ずしも女性外科医よりも技術や能力が高いとは限らない.人々のジェンダー・ステレオタイプを示した結果である.実際には,北米での研究では女性医師や女性外科医の治療成績は男性と同等かそれ以上であった10)11).本邦の対象手術95%以上が登録されているNational Clinical Database(NCD)を利用した比較でも,男女の外科医による術後短期成績に差はないことが示されている12)

看護師も女性医師に対して男性医師に対するほどの評価を与えていない.処置の準備や後片付けも,女性医師には自分で行うことを期待するなど,男性医師と女性医師で態度を変えることがある13)

こうした環境の影響により,女性医師自身がジェンダー・バイアスを内面化させてしまっている可能性も考えられる.「内面化」とは,自分の心の中に他者や社会の規準や価値などを取り入れて自分のものにするプロセスのことを指す.前述した通り,家庭内でも女性医師が家事や育児などの多くを担っていることが多い.女性医師自身がジェンダー・バイアスから解放されることも重要である.職場に男女共同参画を求めるのであれば,家庭内の男女共同参画を進める努力も必要だ.

11. アクティブ・アクションによるジェンダー・ギャップの解消

アクティブ・アクションとは,アファーマティブ・アクションとも言い,マイノリティやこれまで差別の対象とされてきた集団に,その不利益を払拭する何らかの措置を政府等が行うことである.クォータ制とは,アクティブ・アクションの中でも,ある属性を持った人々に一定の議席やポストなどを割り当てるものを指す14).男女雇用機会均等法では,労働者に対し性別を理由として差別的取扱いをすることを原則禁止しているが,女性が極端に少ない部署に女性を優先的に採用することなどは,第8条(女性労働者に係る措置に関する特例)によって法に違反しないことが明記されている15).日本消化器外科学会でも理事や評議員に女性の登用を進めている.

おわりに

本委員会の目標は,日本消化器外科学会において男女共同参画を推進し,女性消化器外科医の活躍と男性消化器外科医の家庭運営への積極的参加を推し進めることである.少子高齢社会に対応し,働き方改革を行い,あらゆる場面での男女共同参画を進めることは,個々の消化器外科医が望むキャリアを達成するためだけではなく,医療の質を高めるためにも必要である.本調査を元に次の目標を定め,活動を継続していきたい.

謝辞 本論文の概要は,第77回日本消化器外科学会総会で発表した(2022年7月横浜開催).

多忙な業務にもかかわらず,アンケート調査にご協力くださった認定施設の事務担当および指導責任者の方々に深謝いたします.また,アンケート作成及び依頼,集計をお手伝いくださった日本消化器外科学会事務局の皆様に感謝申し上げます.

利益相反:なし

文献
 

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