日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
胃瘻造設後に発症した門脈ガスを伴う胃蜂窩織炎の1例
足立 雄城西別府 敬士窪田 健大橋 拓馬小西 博貴塩崎 敦藤原 斉大辻 英吾
著者情報
キーワード: 胃蜂窩織炎, 胃瘻, 門脈ガス
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2024 年 57 巻 2 号 p. 75-81

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Abstract

症例は81歳の男性で,誤嚥性肺炎による発熱・呼吸苦で救急搬入された.抗生剤治療により軽快するも嚥下機能低下を認めたため,胃瘻造設術を施行した.胃瘻造設後26日目に発熱,炎症反応上昇,胃瘻からの血性排液があり,腹部造影CTでは胃壁肥厚,胃粘膜の造影不良,胃壁内ガス,肝内門脈ガスを認めた.上部消化管内視鏡検査では,びまん性に粘膜の暗赤色,浮腫状変化を認め,胃蜂窩織炎と診断した.審査腹腔鏡で胃壊死を認めれば救命のための胃全摘出も検討したが,手術リスクは高かかったため保存的加療を選択した.胃瘻造設後に門脈ガスを伴う胃蜂窩織炎を認めたが,保存的加療にて軽快した1例を経験したので報告する.

Translated Abstract

The patient was an 81-year-old man who was brought to the emergency room with fever and dyspnea due to aspiration pneumonia. The pneumonia improved with antibiotic therapy; however, the patient underwent gastrostomy placement due to development of swallowing dysfunction. On day 26 after gastrostomy, the patient had fever, elevated inflammatory response, and bloody drainage from the gastrostomy. Abdominal contrast-enhanced CT showed gastric wall thickening, poor contrast enhancement of gastric mucosa, gastric emphysema, and hepatic portal venous gas. Upper gastrointestinal endoscopy showed diffuse dark red, edematous changes of the mucosa, leading to diagnosis of phlegmonous gastritis. Total gastrectomy following staging laparoscopy was considered, but conservative treatment was chosen due to the high surgical risk. We report this case as an example of phlegmonous gastritis with portal venous gas after gastrostomy, which resolved with conservative treatment.

 はじめに

胃蜂窩織炎は胃の粘膜下層を中心として全層性に広がる化膿性炎症疾患であり,まれな疾患である1).原因は,原発性,続発性,特発性に分類され2),胃瘻造設に伴う粘膜障害も原発性の原因となりうる3).今回,我々は胃瘻造設後に門脈ガスを伴う胃蜂窩織炎を認め,保存的加療にて軽快した1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

 症例

患者:81歳,男性

既往歴:虚血性心疾患(経皮的冠動脈形成術後),大動脈弁狭窄症(経カテーテル大動脈弁置換術後),僧帽弁閉鎖不全症,三尖弁閉鎖不全症,徐脈性心房細動(ペースメーカ埋め込み術後),末期腎不全(透析中),重症下肢虚血による右趾間潰瘍(末梢血管治療後)

内服:アトルバスタチンカルシウム水和物,クロピドグレル硫酸塩,ボノプラザンフマル酸塩,ビソプロロールフマル酸塩,トラマドール塩酸塩,リスペリドン,クエチアピンフマル酸塩

現病歴:右趾間潰瘍に対し当院フォロー中の患者で,右趾間潰瘍の増悪傾向があり,再度末梢血管治療予定であったが,発熱,呼吸苦認め当院救急搬入された.誤嚥性肺炎による敗血症性ショック,うっ血性心不全,呼吸不全を認めICUにて人工呼吸管理となった.血液培養は陰性で,循環作動薬(NAD+DOB)と抗生剤(TAZ/PIPC+VCM)で軽快し,第5病日に人工呼吸器から離脱した.第6病日に経口摂取を開始するも,嚥下機能の低下を認め,第55病日に内視鏡的胃瘻造設術(Introducer変法)を施行した.第81病日(胃瘻造設後26日目)に発熱,炎症反応上昇,胃瘻からの血性排液を認め,外科紹介となった.

現症:身長165 cm,体重42 kg,BT 37.4°C,BP 146/72 mmHg,HR 90回/分.腹部は平坦,胃瘻周囲に圧痛,反跳痛は認めなかった.

血液生化学検査所見:WBC 32,100/μl,Hb 12.6 g/dl,Plt 194,000/μl,AST 1,092 U/l,ALT 274 U/l,LDH 723 U/l,T-Bil 0.73 mg/dl,Alb 3.2 g/dl,CK 90 U/l,CRP 13.9 mg/dl,Na 136 mmol/l,K 3.7 mmol/l,Cl 95 mmol/l,PT 85%,APTT 37 sec,pH 7.4,pO2 74.0 mmHg,pCO2 45.9 mmHg,Lac 1.9 mmol/l.

腹部造影CT所見:胃体下部を中心に浮腫状の壁肥厚,胃粘膜の造影不良,胃壁内ガスを認めた.胃瘻周囲のfluid collectionや周囲の脂肪織濃度上昇などは認めなかった.また,肝外側区域を中心に肝内門脈ガスを認め,腹腔動脈分岐部で動脈硬化による内腔狭窄も指摘された.明らかな腹腔内遊離ガスは認めなかった(Fig. 1).

Fig. 1  a: Hepatic portal venous gas. b: Gastric emphysema (white arrowsheads). c: Edematous thickening of the gastric wall and absence of contrast enhancement of the mucosa in the gastric body (white arrowsheads). d: No fluid collection around the gastrostomy and no inflammatory spillover to the surrounding area. e: Calcification of the origin of the celiac artery (red arrowhead).

上部消化管内視鏡検査所見:粘膜は全体的に暗赤色であり,浮腫状変化を認め,送気による伸展は不良で易出血性であるが,止血可能な活動性出血は認めなかった.胃瘻周囲と他の部位で明らかな違いは認めなかった.黒色変化は認めておらず,明らかな壊死性変化とは判断しなかった(Fig. 2).

Fig. 2  The gastric mucosa was dark red, edematous and hemorrhagic. There was no obvious necrosis. a: Around gastrostomy. b: Distant view.

細菌検査所見:血液培養は陰性,胃瘻排液培養からはK. pneumoniaeE. faeciumが検出された.

経過:審査腹腔鏡で胃壊死を認めれば救命のための胃全摘出も検討したが,バイタルは安定しており,心疾患の既往,慢性腎不全(血液透析中),低栄養状態などrisk calculatorにおける手術リスクは高かったため(Table 1),最終的に保存的加療を選択した.経腸栄養を中止し中心静脈栄養へ移行し,内服薬は点滴薬へ変更した.オメプラゾール,TAZ/PIPCで治療開始したところ,胃瘻からの血性排液は翌日には胆汁様へ変化し,炎症反応も低下した.発症9日目の腹部造影CTでは,胃壁内ガスや肝内門脈ガスは消失し,胃体下部を中心に認めた粘膜の造影不良や浮腫状の壁肥厚も軽減していた(Fig. 3).その後,経腸栄養を再開したが再燃なく経過,第9病日に抗生剤投与を中止した(Fig. 4).

Table 1 Risk calculator (National Clinical Database feedback)

Predicted incidence of surgery-related death 70.0%
Surgical site infection (SSI predicted incidence) 52.3%
Suture failure prediction rate 35.6%
Predicted incidence of pneumonia 88.8%
Predicted incidence of ventilator management 78.5%
Fig. 3  a: Disappearance of hepatic portal venous gas. b: Disappearance of gastric emphysema. c: The gastric mucosa remained edematous, but contrast enhancement of the gastric mucosa had improved (white arrowheads). d: No significant changes around the gastrostomy.
Fig. 4  Clinical course. WBC and CRP decreased with antibiotic therapy.

 考察

胃蜂窩織炎は,びまん性または限局性に胃の粘膜下層を中心とし全層性に広がる化膿性炎症疾患であり比較的まれな疾患である1).臨床経過により急性型,亜急性型,慢性型に分類され,半数以上は急性型である2).本疾患の原因は大きく原発性,続発性,特発性に分類される4).原発性は外傷や胃炎,胃癌もしくは内視鏡治療により引き起こされた胃粘膜の損傷部分から細菌が侵入して起こるもの,続発性は膵炎や肝膿瘍,胆囊炎などの隣接する臓器から胃への炎症波及により起こるもの,または他臓器からの血行性/リンパ行性に炎症が波及するもの,特発性は原因が特定できないものとされている5).誘因として,慢性胃炎,消化性潰瘍,胃癌,内視鏡治療,アルコール多飲などによる粘膜障害の他に6),高齢,糖尿病や免疫抑制剤などによる免疫力低下,萎縮性胃炎や胃酸分泌抑制薬による胃内pH上昇に起因した殺菌力の低下などが報告されている2)7)8).また,胃瘻造設では,胃壁損傷,内視鏡による送気や嘔吐,栄養剤注入による胃内圧上昇が誘因となり遅発性に胃蜂窩織炎を発症することがある3).起炎菌としては大部分が連鎖球菌で,他にも腸球菌やブドウ球菌,大腸菌,クロストリジウム属,プロテウス属などが報告されている9).自験例は,胃瘻造設から26日後の発症で,検査所見からも胃瘻が今回の原因となったかは明らかではないが,誤嚥性肺炎による敗血症性ショック,高齢,低栄養状態と易感染状態にあったことに加え,胃酸分泌抑制薬投与中であったことから胃内が低酸状態となり胃粘膜防御機構が脆弱になっていたところに,胃瘻造設による粘膜損傷や栄養剤注入による胃内圧上昇が誘因となって細菌感染を引き起こしたと考えられる.

本疾患を臨床的に診断することは難しく,総合的に診断することが多い.急性型では,悪寒,発熱に加え上腹部痛,悪心,嘔吐などの消化器症状を認めることが多く,炎症反応の上昇も認める.胃液培養から起炎菌を同定できることもある10).造影CTでは胃壁のびまん性壁肥厚や胃壁内ガス,膿瘍を示唆する低吸収域を呈することがあり11),上部消化管内視鏡検査では,胃粘膜のびまん性浮腫変化,発赤,びらん,潰瘍,出血などを認め,生検部位から膿汁排出を認めることもある12).また,胃蜂窩織炎は粘膜下層を中心とした炎症であり,超音波内視鏡検査で粘膜下層の肥厚および内部の低エコーが特徴的とされている13).自験例では,造影CTで胃壁のびまん性壁肥厚,胃粘膜の虚血を疑う造影不良,胃壁内ガスに加え門脈ガスも認めた.動脈硬化により腹腔動脈は狭小化しており,胃粘膜の血流障害による胃壊死も鑑別に挙がったが,胃液培養で細菌が検出されたことから胃蜂窩織炎と診断した.

門脈ガスは,絞扼性イレウスや非閉塞性腸管虚血症などの腸管壊死を伴うものと急性胃拡張,麻痺性イレウス,胃潰瘍,胆管炎など腸管壊死を伴わないものがあり,腸管壊死を伴う場合は予後不良とされている14).門脈ガスの原因は,腸管壊死や炎症などによる粘膜の損傷,腸管内圧の亢進,ガス産生菌の関与が挙げられている15).従来は腸管の壊死所見と考えられ緊急手術の適応であったが,腸管壊死を伴わず保存的加療で軽快する症例も報告されている16).PubMed(1950年~2022年)および医学中央雑誌(1964年~2022年)で,それぞれ「percutaneous endoscopic gastrostomy」,「emphysematous gastritis」と「胃瘻造設」,「胃蜂窩織炎」をキーワードとして検索したところ(会議録除く),2例の報告があった(Table 217)18).自験例を含め全例で門脈ガスを認めたが,保存的加療にて軽快していた.胃瘻造設後に無症候性の門脈ガスを認めた報告19)もあり,胃瘻造設後の門脈ガスは必ずしも腸管壊死を示唆する所見ではないと考えられる.

Table 2 Clinical findings in reports of phlegmonous gastritis due to percutaneous endoscopic gastrostomy

No. Author Year Age Sex Comorbidity Onset HPVG Treatment Outcome
1 Koyama 17) 2021 83 Male Mandibular gingival cancer, Diabetes 10 + Tube feeding discontinuation, PPI, Antibacterial drug Improvement
2 Nakayama 18) 2023 86 Male glioblastoma 10 + Tube feeding discontinuation, PPI, Antibacterial drug Improvement
3 Our case 81 Male

Ischemic heart disease, end-stage renal failure, severe lower extremity ischemia

Right interdigital ulcer

26 + Tube feeding discontinuation, PPI, Antibacterial drug Improvement

HPVG: hepatic portal venous gas

胃蜂窩織炎の治療法は保存的加療と外科的治療の二つに分類される.死亡率はびまん性で54%,局所性で17%であり,診断後可及的速やかに治療を開始する必要がある2).以前は外科的治療が有効である報告が多かったが,強力な抗生剤の開発やCTなどの画像診断能の向上に伴い早期診断および早期治療が可能になったことで,over surgeryと呼べる症例は減少し15),近年では保存的加療での改善例の報告も増加している20).ただし,出血,穿孔,腹膜炎,通過障害など保存的に軽快しない場合や難治例,重症例には外科的治療が必要となることがあるため,保存的加療を選択する場合は速やかに外科治療に移行できる体制を整えておく必要がある12).自験例では,全身状態は比較的落ち着いていたことや併存疾患,誤嚥性肺炎による衰弱,低栄養状態など手術リスクが高かったことから保存的加療を選択した.保存的加療で比較的速やかに状態は改善した.従来は門脈ガスを伴う胃蜂窩織炎は外科的治療の適応とされることが多かったが,外科治療に移行できる体制を整えたうえでの保存的加療も選択肢の一つとなると考えられた.

利益相反:なし

 文献
 

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