2024 年 57 巻 3 号 p. 158-168
日本消化器外科学会ワーク・イン・ライフ委員会では「働き方改革」導入直前の消化器外科医の労働環境の状況や改善への取り組み,会員の意識を明らかにする目的で会員を対象にアンケートを行い,2,932名(18.6%)より回答を得た.その結果,労働環境の改善に向けた取り組みはみられるものの労働時間等の改善は十分とは言えない結果であった.それにも関わらず会員の要望で最も多かったのは賃金の改善であった.兼業が収入の30%以上を占めるものが62%で,手術技術料としてのインセンディブの導入を望む回答が多かった.休日・深夜・時間外加算1の導入は65%まで浸透してきているが,インセンティブの導入は全体の28%であった.
後輩や子供に積極的に消化器外科を勧める会員は38.2%,14.6%と少数で,「どちらでもない」という回答が最も多かった.自身が再度消化器外科医を選択するという回答は半数を超えているのに次世代の医師に勧める回答は少数に留まった.このことは自身の仕事に意義は感じているものの,現状の消化器外科医を取り巻く環境をそのままに次世代に引き継ぐことに疑問やためらいを感じる会員が多くいることを示唆しているのではないだろうか.
本学会としては消化器外科離れに歯止めをかけるべく,会員を取り巻く労働環境の改善に資する活動に取り組み,社会に向けて情報を発信していきたいと考える.
「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(通称「働き方改革関連法」)は2018年6月29日に可決成立し,7月6日に公布された.そして,2019年4月より適宜適用が開始されているが,医師を含め限られた職域のみに5年間の猶予期間が与えられていた.そして,その猶予期間も終了し2024年4月から,いよいよ「医師の働き方改革」の新制度が施行される.
厚生労働省(以下,厚労省)の報告では医師数は339,623名(2020年12月31日現在)となっている.この医師数は年々増加しており2000年255,792名,2010年286,699名であり,ここ10年間で約53,000名,20年間で約84,000名増加していることになる.一方で,診療科別医師数でみると外科全体では2020年27,946名(医師全体の8.2%)であり,ここ20年間ほぼ不変である.つまり,全体の医師数は増加の一途をたどるなかで,医師全体から占める外科医(消化器外科以外の多くの外科系診療科を含む)の割合は相対的に減少している(2000年28,732名(11.2%),2010年27,820名(9.7%))(Fig. 1A)1).
1-A:医師数の推移.1-B:日本消化器外科学会員数の推移.
日本消化器外科学会の総会員数は19,383名(2023年9月現在)である.会員数の動向として2011年20,891名,2015年20,306人,2018年に20,000名を下回り,2020年19,525人と緩徐にではあるが,実数として減少傾向である(Fig. 1B).
消化器外科医を志す若手医師の減少は,これまでにも問題視され,日本消化器外科学会においても2007年,2011年に労働環境に関するアンケート調査を行い,その結果を報告してきた2)3).しかしながら,消化器外科離れに歯止めがかかっていないのが現状である.今回の「医師の働き方改革」により,長時間労働の医師の労働時間短縮や健康確保のための措置が法的に講じられるが,それが「真の」医師の働き方改善につながり,ひいては消化器外科医の減少を食い止められるかは定かではない.働き方改革を目前とした現状における消化器外科医の労働環境と各施設での取り組みや消化器外科医の意識を把握することで課題や問題点を抽出し,客観的な事実として積極的に発信し,多方面への理解を得るための重要な根拠とするべくアンケート調査を行った.
日本消化器外科学会の総会員数19,383名(2023年9月現在)の内,65歳以下およびメールアドレスの登録がある会員15,723名(男性14,267名(90.7%),女性1,456名(9.3%))を対象とした.
2. 調査方法MyWeb(会員専用ホームベージhttps://myjsgs.members-web.com/)にログインの上,その先のリンクよりアンケート画面へ進み,回答を依頼した.
3. 回収状況回答者数は2,932名であり,対象者全体に対する回答率は18.6%であった.
設問は大きく以下の9の大項目から構成されていた.項目ごとの結果は以下の通りである.
1. 回答者の背景47すべての都道府県の会員からの回答が得られた.回答者の年齢層は,20歳代2.0%,30歳代29.1%,40歳代33.9%,50歳代25.7%,60歳代9.0%であった.40歳代と50歳代で約6割であった.以下に日本消化器外科学会の会員の各年代の割合を示す.20歳代3.8%,30歳代21.6%,40歳代22.5%,50歳代23.4%,60歳代20.2%(2022年度).
女性会員からの回答が250名(8.5%)であり,学会会員全体の男女比率(女性9.3%)と概ね同様であった.既婚者からの回答が11.8%であった.
回答者の子供の数でみると,2人が37.9%で最も多く,次いで3人が20.9%,0人が19.7%であった.
主たる勤務先として,大学病院もしくは国公立,公的病院が80.8%(内,大学付属病院勤務44.4%)であり,私立病院もしくは診療所は18.0%であった.また,一般病床を中心とする急性期病院が82.2%であった.
勤務先医療機関全体の病床数は,500床以上が58.2%であり,100床未満は3.0%であった.そのうち外科としての病床数でみた場合,20床以上60床未満が最も多く57.8%であり,100床以上が14.9%であった.
勤務形態は,理事長・院長・副院長・診療部長・部長・教授などの経営責任のある回答者が37.2%であった.
専門領域は,食道7.4%,胃12.8%,肝胆膵30.4%,大腸24.5%,救急0.7%,一般外科21.0%であった.
2. 労働時間(勤務時間) 2.1 労働と自己研鑽の区別施設により労働時間と自己研鑽(学会準備,臨床・基礎研究,論文執筆,手術への学習など)の時間を区別して管理されているかに関して,「区別されている」と回答したものが74.4%であった.
2.2 自己研鑽の時間1週間あたり自己研鑽にかける時間は,5~10時間が最も多く36.3%であり,5時間未満が26.7%,10時間以上が34.8%であった.
2.3 労働時間(1週間あたり)1週間あたりの平均労働時間(当直を除く)は,50~60時間が最も多く30.3%,次いで40~50時間未満が22.9%,60~70時間未満が19.6%であり,40時間未満は,わずか7.7%であった(Fig. 2).労働基準法では「使用者は,原則として,1日に8時間,1週間に40時間を超えて労働させてはいけない」とされている.
出勤時間(時刻)は,7時~8時で最も多く59.0%であった.帰宅時間(時刻)では19時から21時が最も多く42.4%であった.平日の睡眠時間は,5~6時間が最も多く41.9%,次いで6~7時間が34.2%であった.
2.5 時間外労働(1か月あたり)時間外労働時間は,45~80時間が最も多く31.6%であり,次いで30時間が25.7%,30~45時間が22.2%,80~100時間未満が9.1%であり,100時間以上は7.6%であった(Fig. 3).働き方改革では,休日労働も含め1か月あたり100時間までの時間外労働とされている.
月の完全休日は,月1~2日が最も多く27.7%であり,完全休日なしが11.3%であった.
2.7 夏季休暇,年末年始休暇夏季休暇は,4~6日が最も多く58.3%であり,1~3日が16.7%であった.また,夏季休暇なしが5.1%であり,7日以上の回答はわずか20.0%であった.
年末年始休暇は,1~3日が最も多く50.3%であり,次いで4~6日が36.2%であった.また,年末年始休暇なしが10.6%であり,7日以上の回答はわずか2.9%であった.
3. 当直,オンコール 3.1 平日当直(1か月あたり)自施設,他施設併せて平日当直は,1~2回が最も多く41.7%であり,次いで3~4回が17.4%であった.また,当直なしが28.1%であったが,回答者の内50歳以上が30%以上を占めることから,50歳以上でも一定の割合で当直業務を行っていることになる.逆に7日以上が4.4%であった(Fig. 4A).
4-A:平日当直(1か月あたり).4-B:休日当直(1か月あたり).
休日当直は,1~2回が最も多く58.6%であり,3~4回が10.7%,休日当直なしが29.9%であった(Fig. 4B).
3.3 当直以外での緊急呼び出し(1か月あたり)当直以外で緊急で呼び出される回数は,0回が最も多く25.2%であり,次いで3~4回が18.7%であった.
3.4 オンコール(1か月あたり)平日オンコールの回数は,0回が最も多く32.8%であり,次いで3~4回が22.3%,5~6回が13.5%であった.
休日オンコール回数は,1~2回が最も多く45.7%であり,次いで0回が29.7%,3~4回が20.8%であった.
3.5 当直明けの勤務当直明けの勤務(回答者の15.9%は当直なし)に関して,通常勤務が最も多く58.0%であり,次いで昼12時までに帰宅が15.9%であった.勤務なしが3.4%,朝9時まで(当直終了時)に帰宅が1.8%,夕17時までに帰宅が5.0%であった.当直明けに関わらず,「17時までに帰宅」が「通常勤務」と異なることで,通常勤務とは「当然のように17時以降まである」ことがわかる.
3.6 当直明けの手術当直明けに手術に参加するかに関して,「いつもある」が最も多く38.4%であり,次いで「しばしばある」が34.7%であった.一方で,当直明けでは「手術に参加しない」が9.6%であった.当直明けで手術に参加したことがあると回答した方の内,当直が翌日の手術に与える影響に関して,「医療事故・インシデントはないが,まれに手術の質(出血,手術時間,合併症,郭清など)が低下することがある」が最も多く63.3%であった.「医療事故・インシデントはないが,しばしば手術の質が低下することがある」が16.5%,「疲労による医療事故・インシデントの経験がある」が3.5%であった.一方で,「影響しない」が15.2%であった.
4. 労働時間を短縮させるためには「医療事務を充実させる」が最も多く67.6%であり,次いで「化学療法,終末期医療などを他科へ依頼する」が60.4%,「主治医制度から交代勤務制へ変える」が58.0%,「担当患者数を減らす,もしくは外科医を増やす」が52.7%であった(複数回答可)(Fig. 5).
年間の総収入は1,000~1,500万円未満の層が34.6%,1,500~2,000万円未満の層が41.1%であった.2,000万円以上が15.1%であり,1,000万円未満は9.2%であった.
主たる勤務先以外の兼業・アルバイトからの収入があると回答したものが62.1%であり,その理由として「金銭のため」が最も多く82.9%であり,次いで「病院依頼による地域医療支援等のため」が46.1%であった(複数回答可).
収入における兼業の割合が全収入の30%以上と回答したものが62.9%であり,50%以上(収入の半分を兼業に依存)と回答したものが36.8%であった.
賃金に関する満足度に関しては,「やや不満足である」が最も多く48.3%と半数を占め,「全く不満足である」が28.4%,「満足している」が23.3%であった.賃金体制の問題点として,「手術に対する特殊技能手当を支給すべき」が最も多く75.9%であり,次いで「他科との比較で割安感が強い」が64.1%,「超過勤務の賃金が十分に支払われていない」が57.4%であった.(複数回答可)
現在の消化器外科手術の診療報酬(保険点数)に関して,診療報酬として不十分であるが最も多く72.9%であり,適正であるが16.2%,診療報酬として十分すぎる(高すぎる)が0.3%であった.
6. 休日・深夜・時間外加算1およびインセンティブの導入月あたりの時間外・休日の緊急手術の回数は,1~2回が最も多く47.6%であり,0回が24.5%,3~5回が23.0%であった.
施設として休日・深夜・時間外加算1を導入していると回答したものが,64.7%であった(Fig. 6A).
6-A:休日・深夜・時間外加算1の導入.6-B:緊急手術に対するインセンティブ.
「休日・深夜・時間外加算」は,平成 26 年度(2014年)の診療報酬改定において,休日・時間外・深夜に行われる緊急手術・処置に対して大幅な加算の増額を行うことで,外科医の過重労働に対する配慮,待遇改善を背景・目的として制定されたものである.休日・時間外・深夜加算は1と2に分類され,従来の加算に当たる「2」については多くの病院ですでに請求がなされている.一方で,「1」については従来の加算よりそれぞれ倍額の診療報酬加算が行われている.
しかしながら,緊急手術に対してインセンティブが導入されているかに関しては,「病院全体で導入していない」と回答したものが68.2%であり,「病院全体で導入している」と回答したものが22.6%であった(Fig. 6B).消化器外科緊急手術に関するインセンティブは「病院全体で導入されている」が22.6%,「病院全体ではないが消化器外科に導入されている」が5%で,合わせると全体の28%が導入されていた.休日・深夜・時間外加算1が導入されている施設でインセンティブが導入されているとすると加算1導入施設の41%という結果であった.
インセンティブを導入していない施設の内,「導入を検討したい」と回答したものが64.1%であり,「導入を検討したいが,導入は難しい」と回答したものが30.2%であった.
インセンティブを導入している施設の内,「報酬に関して一律である」が39.2%,「手術所要時間で異なる」が36.6%,「休日や深夜などの時間帯で異なる」が35.1%であった.(複数回答可)また,報酬が支払われる対象に関して,手術に入った外科医全員が57.6%で,執刀医もしくは第一助手までが合わせて24.7%であった.報酬額に関して,「少ない」が73.1%で多数を占め,「多い」は0%であった.
7. 主治医性,チーム制(複数主治医制)チーム制(複数主治医制)が52.1%,主治医制が47.9%であり,ほぼ半々であった(Fig. 7A).チーム制を導入している施設の内,チーム制導入により体調管理に恩恵があったと回答したものが81.8%,家庭やプライベートが充実したと回答したものが77.0%,教育・研究に充てる時間が増えたと回答したものが64.6%であった(Fig. 7B).また,チーム制において患者側からの不満の訴えがあったかに関して,「なし」が58.1%と半数以上を占め,一方「あり」が18.2%であった.
7-A:主治医制か?チーム制か? 7-B:チーム制によって,家庭やプライベートは充実したか?
反対に自身が患者側とした場合,「チーム制がよい」と回答したものが57.2%,「主治医制がよい」が24.4%であった.
労働時間内の病状説明において,患者側から不満の訴えがあったかどうかに関して,「あり」が37.2%であり,「なし」が44.8%であった.労働時間内の病状説明の推進に関して,賛成が86.6%であり,反対が2.0%であった.
8. 次世代に向けて回答者自身が再度診療科を選択できるとしても消化器外科を選択するかに関して,「はい」が52.3%,「いいえ」が15.3%,「どちらともいえない」が32.4%であった(Fig. 8A).
8-A:自分自身が再度消化器外科になりたいか? 8-B:後輩等に消化器外科医になることを勧めるか? 8-C:自分の子供に消化器外科医になることを勧めるか?
後輩等に消化器外科医になることを勧めるかに関して,「強くそう思う」が10.3%,「そう思う」が27.9%,「どちらでもない」が43.7%,「あまりそう思わない」が13.4%,「全くそう思わない」が4.6%であった(Fig. 8B).
続いて,自分の子供(該当する子供がいない場合,これから進路を決める子供がいると想定して回答を依頼)に消化器外科医になることを勧めるかに関して,「強くそう思う」が4.2%,「そう思う」が10.4%,「どちらでもない」が45.8%,「あまりそう思わない」が22.4%,「全くそう思わない」が17.2%であった(Fig. 8C).
9. 最も不満に思うこと(複数回答不可)現在の勤務状況で最も不満に思うことに関して1つ選択した場合,給与が最も多く44.3%であった.手術・検査・教育・研究などの勤務内容が11.6%,労働時間が11.2%,職場における人間関係が11.1%,当直・オンコール回数が5.7%であり,現状に不満がないが12.2%であった.
今年(2024年)4月より施行される「働き方改革関連法」を前に.現時点での消化器外科医の取り巻く環境や意識に関してのアンケート調査を施行した.その関心の高さを反映するかのように会員2,932名から回答をいただくことができた.対象会員全体に対する回答率は18.6%であり,これまでのアンケート調査と比較しても高く,多くの消化器外科医の現状や意識を反映していると考えている.
労働時間に関して厚労省では「週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下にする」という目標を掲げている.本アンケートの結果から,1週間当たりの労働時間(当直を除く)が60時間以上と回答したものは,1,146名(39.1%)であった.
また厚労省は,「長時間労働と過労死等」に関して以下の見解を示している.脳血管疾患・心臓疾患に係る労災認定基準において,労働時間として「①発症前1か月間におおむね100時間を超える時間外労働に継続して従事した場合,②発症前2か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね80時間を超える長時間労働に継続して従事した場合には,業務と発症との関連性が強いと判断される」また,「発症前1か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど,業務と発症との関連性が徐々に強まると判断される」としている.今回のアンケートから時間外労働が「100時間以上」と回答したものが222名(7.6%),「80時間以上」が490名(16.7%),「45時間以上」が1,416名(48.3%)となっている.つまり,一般的な労働とみなすと回答者の約半数が過労死との関連がある労働環境で働いていることになる.
特別条項つきの時間外労働協定(36協定(労働基準法第36条))を締結した場合は,時間外労働時間として年960時間まで(A水準に相当)とされており,医師はこれに相当する.月換算で80時間であるため,本アンケート結果から16.7%はA水準では困難であることが想定される.一方,都道府県の指定を受けた特定労務管理対象機関(B水準,連携B水準,C-1水準,C-2水準)であれば,時間外労働の上限が年1,860時間まで緩和されている.月換算で155時間であるため,それ以上と回答したものが81名(2.8%)にとどまっており,対策を講じることで現実的であると想定される.
厚労省からも提案されている複数主治医制(チーム制)に関しては,アンケート結果では半数にとどまっている.規模などの理由により,導入が困難な施設もあると思われるが,導入後の体調管理やプライベートな時間の確保などの恩恵があり,一方で患者サイドからの不満は少数であることから推進してゆくことで効率的な労働に資する可能性がある.
しかしながら,本アンケートの特筆すべき設問の一つは,「最も不満に思うこと(項目9)」であると考えている.複数回答不可,つまり1つのみを選択していただいたが,最も多い回答は「給与」であり,1,300名(44.3%)であった.これは,「労働時間」を最も不満に思っていると回答した328名(11.2%)を大きく上回っていた.そして,給与そのもの(額面上の数字)としてどのように感じるかとの設問(項目5)に対して「全く不満である」と回答したものが834名(28.4%)にとどまっていた.つまり,ほとんどの消化器外科医は労働時間そのものに不満を感じているわけではなく,リスクや労働内容の対価としての賃金が十分に支払われていない現状を不満と感じていることが想像される.総収入からみれば決して低いとはいえない会員も一部に見られるが,アンケート結果をみれば収入の差は外勤と長時間の超勤によると考えられることから,このような働き方によってプライベートな時間を圧迫する結果となり,一方で仕事自体を正当に評価されていないという思いが強いのではないだろうか.
そして,もっとも衝撃的な結果であった設問は,「次世代に向けて(項目8)」である.回答者自身が再度診療科を選択できるとしたら,消化器外科を選択するという回答は52.2%であり,今後の消化器外科の将来を担うであろう後輩に消化器外科を勧めるかという設問に対して「はい」と回答したものが38.2%にとどまり,子供に消化器外科を勧めるかという設問に対して「はい(そう思う)(強くそう思う)」と回答したものはわずか14.5%であった.
一方で,「後輩や子供へ勧めるか?」の2つの設問に対して「どちらでもない.」という回答が44%,46%と多く認められた.また,自身が再度消化器外科医を選択するという頻度は半数を超えているのに後輩や子供に勧める頻度は殊更に低かった.次世代の医師に関する設問において「どちらでもない.」という回答が選択された背景には会員の様々な思いがあるものと推察されるが,現状の労働環境のままで消化器外科を次世代の若者に引き継ぐことへの疑問やためらいが反映されているとは読めないだろうか.いずれにせよ,「次世代の医師」に対して消化器外科を「勧めない」ないしは「どちらでもない」という回答が「勧める」という回答を大きく上回ったという結果は重く受け止めなければならない.このような会員の思いがすでに消化器外科学会会員数の減少という形で表れているのではないかとも感じている.
そしてアンケートの結果より,その不満は労働時間の問題だけよりも,仕事内容の対価として十分と感じられない収入(賃金)であり,それを補うために(自己研鑽に割ける時間を削りながらも)兼業に頼らざるを得ない生活が要因なのかもしれない.
ワーク・イン・ライフ委員会でもこれらの問題を具体的な課題として取り組んでゆくべきと考えている.そして,医師の働き方改革が目前に迫った現状として考慮すべきこととして,収入としては(少なくとも)現状より減らさずに確保してゆくこと,具体的には収入源の多くを依存している兼業(アルバイト)の機会は労働時間の制約の中でも少なくとも確保することが重要と考える.今回のアンケートによれば消化器外科手術に対するドクターインセンティブ導入の要望が強かった.消化器外科のみならず,他に代替的な治療のない侵襲的な診療行為を行う医師に対するドクターインセンティブの導入について同様の要望を持つ他学会とも協働していくことを検討したい.また,われわれが取り組んできた休日・深夜・時間外加算の要件が緩和された緊急手術に限ってもインセンティブを導入していない施設が半数以上であり,導入している施設であってもその大半が報酬額には満足していないのが現状であるため,加算にともなうインセンティブが各医師に支給されるようさらに情報を発信していきたい.また,超過勤務に対する正当な賃金が支払われていないという回答も多くみられ,「働き方改革」導入に際し,いわゆるサービス残業が行われないよう今後注視していく必要がある.
厚労省の大学の附属病院等の医師の研鑽に係る労働時間に関する通知が改正され学会や研究会に関わる業務が労働時間として算定される以上,学会・研究会そのものの集約化や合同開催なども対策として必要となってくるであろう.
医師の過労死のニュースを耳にすることがある.当然であるが,消化器外科医を含む医師のみでなく,あらゆる職種において過労死等は回避しなければならない重要な問題である.その上で,外科医や消化器外科医の存続や将来を考えると,今回の「医師の働き方改革」が担う課題は労働時間にとどまらず多岐に渡り,その改革直前に施行した本アンケートの結果は極めて重要であると考えている.
適切な賃金の問題も含めた「真の」医師の働き方改革を達成することで,消化器疾患に病める患者さんへの診療に誇りをもって取り組める,魅力あふれる消化器外科を次世代の若者たちに勧めることができる,そして何より自分自身がもう一度「消化器外科医になりたい」と心からいえる環境を達成することを目指して活動に取り組んでいきたい.
多忙な業務の中,アンケート調査にご協力いただいた会員の皆様に深謝いたします.また日本消化外科学会第5代理事長 北川雄光先生に感謝申し上げます.
最後に本アンケート調査に際して,選択肢の設定不備や,何らかの理由で正確な(正直な)回答が困難,また回答自体を断念せざるを得ないというご意見をいただいた.回答率は18.6%と過去最高であったものの,回答の意志をもってアンケートに向かってくださった会員はもっと多かったと思われ,該当会員の方には深くお詫びを申し上げます.ご指摘を真摯に受け止め,今後のアンケートを施行する際は,様々な環境の先生方が回答しやすい設問にするよう努力いたします.
利益相反:なし