日本消化器外科学会雑誌
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編集後記
編集後記
稲木 紀幸
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2024 年 57 巻 7 号 p. en7-

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昨年日本消化器外科学会雑誌の編集委員を拝命し,歴史と伝統のある学会における貢献する役割をいただき,光栄である以上にその重責を感じています.毎月行われる編集委員会での議論は,コメントのやり取りだけで行われる一般的な査読に比べて,情熱と真心がこもった白熱したものであり,私自身も非常に勉強になります.

そんな折,私自身が外科医になって初めて書いた症例報告をふと思い出しました.紅皮症を伴う早期胃癌の一例であり,切除とともに皮膚所見が軽快したことを報告したものであります.医師2年目くらいだったかと思いますが,上司に指導を受けながら仕上げた論文を投稿し,査読によるコメントに応じて修正し,採用されたときのあの純粋な喜びが今でも記憶に残っています.その後も多くの上司から指導をいただいてきましたが,ある指導医から言われた「論文は著者の名刺代わりである」という言葉が心に残っています.確かに,論文は,その時期に所属した施設で,自分自身の経験や研究をまとめ,永久に記録として残る名刺であり,その積み重ねがその者のプロフィールそのものになります.査読は著者の名刺,プロフィール,よく言えばより良いキャリア形成をお手伝いし,人材育成をする仕事と言えます.そのような大切な仕事をしていることを念頭に今後も編集委員として貢献したいと思っています.

さて,第57巻7号掲載論文の中で,私の一押し論文は,「上部消化管穿孔を疑う画像所見を呈した食道癌大動脈食道瘻に伴う急性胃拡張の1 例」です.上部消化管穿孔,食道癌大動脈食道瘻,急性胃拡張それぞれ単独では経験することがあるものの,それらが一連に相関し発症し治療にも難渋した症例です.胸部腹部にわたる知見と深い洞察,早急でダイナミックな対応を要する症例であったと思われます.予定手術で忙しいなかでも,このような救急患者に迅速適切な対応ができる外科医であるべきと示唆されるような論文です.ご一読ください.

「査読への想い:如何に教育的な査読によりいい論文を作り出すか?」

前述させていただいたとおり,査読は著者のキャリア形成をお手伝い,人材育成をする仕事であると言えます.症例報告であれ臨床研究であれ,顔は見えずとも著者がどのような思いで,何を伝えたいのかを見出し,コメントをお返ししてやり取りをする間に,著者の人となりも見えてくることもあります.論文がより洗練されるための示唆を行い,一緒に論文を作り上げている気持ちにもなります.日本消化器外科学会雑誌の採択率は以前に比べて高くなっています.ぜひ投稿をいただき,一緒に良い論文を作り上げていければ幸いです.

 

(稲木 紀幸)

2024年7月1日

 

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