日本消化器外科学会雑誌
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57 巻, 7 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
症例報告
  • 関 健太, 森 和彦, 遠田 譲, 伊藤 良太, 久保 賢太郎, 小林 隆, 川崎 誠治
    原稿種別: 症例報告
    2024 年57 巻7 号 p. 319-325
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2024/07/31
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    症例は73歳の男性で,胸部中部食道癌に対し陽子線による化学放射線療法を実施した.第97治療病日,悪心と全身倦怠感から前医を受診しCTにて上腹部に多量の腹腔内遊離ガスが疑われ,消化管穿孔の診断で当院搬送となった.胸部の造影CTを追加し大動脈食道瘻および上部消化管穿孔と診断した.緊急で大動脈ステントグラフト内挿術を行い循環動態安定を得たのち開腹手術を実施した.著明に拡張した胃壁を認めるも腹水は淡血性で消化管穿孔は否定的であり血腫に伴う急性胃拡張と診断した.胃壁を切開し血腫除去後,胃瘻を造設した.以後の治療は希望されず術後24日目に退院,退院後47日目に自宅で永眠した.本症例は原病による出血に続発した急性胃拡張が,胃壁の過伸展のため腹腔内遊離ガスと紛らわしいCT像を呈したが,血腫による急性胃拡張の既報はない.特徴的な画像とともに食道癌による大動脈食道瘻の治療,急性胃拡張について考察する.

  • 新垣 滉大, 大内田 研宙, 堤 親範, 進藤 幸治, 森山 大樹, 藤岡 寛, 下川 能史, 松本 崇雅, 毛利 太郎, 田村 公二, 永 ...
    原稿種別: 症例報告
    2024 年57 巻7 号 p. 326-333
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2024/07/31
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    症例は75歳の男性で,2020年進行胃癌に対して腹腔鏡下胃全摘術を施行した.病理診断で口側断端にリンパ管侵襲を認め非治癒切除と判断した.免疫染色検査でHER2[3+]であり,術後化学療法としてトラスツズマブ+カペシタビン+シスプラチン療法8コースとカペシタビン単剤療法を16コース施行した.術後約2年で左下肢の脱力感および転倒のため近医搬送となった.CTで転移性脳腫瘍を指摘され当院へ転院となった.その他の転移はなく,脳神経外科で開頭腫瘍摘出術を施行した.術後病理より胃癌の転移性腫瘍と判断した.トラスツズマブ投与後の頭蓋内単独再発例であったため,頭蓋内も含めた全身の治療効果を期待してニボルマブ単独投与を行い,術後6か月現在無再発経過中である.今回,我々はHER2陽性進行胃癌の切除後に抗HER2療法を行い,その後に単独脳転移を呈した1例を経験したため報告する.

  • 黒坂 翔太郎, 大久保 悟志, 宇留賀 公紀, 松村 優, 進藤 潤一, 橋本 雅司
    原稿種別: 症例報告
    2024 年57 巻7 号 p. 334-341
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2024/07/31
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    成人の異所性副腎皮質腺腫はまれで,肝十二指腸間膜周囲に発生した報告はない.胆囊管に隣接する異所性副腎皮質腺腫の切除例を報告する.症例は52歳の女性で,健診の腹部超音波検査で胆囊頸部に13 mmの腫瘤を指摘された.造影CTでは胆囊管に接して18×17 mmの境界明瞭で辺縁平滑な結節性病変を認め,早期濃染とwash outを示した.手術所見では,腫瘤は胆囊頸部の漿膜下に存在しており,腫瘤を含む漿膜下の脂肪組織から,総胆管とは剥離可能であったが,胆囊管とは剥離困難であり,腫瘤と接する胆囊管より総胆管側で胆囊管を切除することで腹腔鏡下胆囊摘出術にて腫瘤を摘出しえた.病理組織学的検査では異所性副腎皮質腺腫の診断であった.異所性副腎皮質腺腫は,特徴的な画像所見がないため術前に診断することが困難であり,治療法も確立されていないため,さらなる症例の蓄積が望まれる.

  • 清沢 奈美, 三田 篤義, 大野 康成, 窪田 晃治, 増田 雄一, 野竹 剛, 細田 清孝, 岩谷 舞, 清水 明, 副島 雄二
    原稿種別: 症例報告
    2024 年57 巻7 号 p. 342-349
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2024/07/31
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    門脈圧亢進症は食道胃静脈瘤・脾機能亢進症を来し,内科的治療抵抗性の場合は外科的治療の適応となる.生体肝移植後の肝グラフトに起因する門脈圧亢進症は再移植適応であるが,ドナー不足から困難なことも多い一方,脾摘術の効果は不明である.症例1は25歳の男性で,生後285日に胆道閉鎖症に対し生体肝移植術を受けた.持続する肝機能障害と脾機能亢進症,胃食道静脈瘤を認め門脈圧亢進症と診断し,Hassab手術を施行,肝生検で慢性拒絶が疑われた.症例2は33歳の女性で,15歳時に劇症肝炎に対し生体肝移植術を受けた.遷延する肝機能障害と脾機能亢進症,腹水貯留を認め,門脈楔入圧が上昇していた.門脈圧亢進症に対し脾摘術を施行,肝生検で慢性拒絶が疑われた.両症例とも術後に血小板数の上昇とプロトロンビン時間の改善を認めた.生体肝移植後の門脈圧亢進症に対し脾摘術の有効性が示唆されたが,その判断には長期の観察が必要である.

  • 山下 柚子, 谷岡 信寿, 前田 将宏, 桑原 道郎
    原稿種別: 症例報告
    2024 年57 巻7 号 p. 350-357
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2024/07/31
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    症例は2019年に他院で胆管癌に対し膵頭十二指腸切除術(Child変法再建)を施行された86歳の女性で,2022年12月に下腹部痛,嘔吐,下痢を主訴に当院に救急搬送された.造影CTで横行結腸の捻転像と右側結腸の拡張を認め,横行結腸軸捻転症と診断した.腸管血流は維持されていたため,下部消化管内視鏡での減圧,整復を試みたが困難であり手術を施行した.手術所見では後結腸経路で挙上空腸を通した横行結腸間膜の間隙に右側結腸が入り込み,横行結腸が臓器軸に720°捻転していた.捻転を解除し,間隙を縫合閉鎖し手術を終了した.術後15日目に転院され,その後6か月再発は認めていない.結腸軸捻転症のうち横行結腸軸捻転症は1~4%と非常にまれで,膵頭十二指腸切除後に発症した報告は本邦ではみられない.本病態は右側結腸の授動と横行結腸間膜の間隙に起因しており,膵頭十二指腸切除術における潜在的な合併症の一つと考えられた.

特別報告
  • 黒田 慎太郎, 大段 秀樹, 伊藤 綾香, 齊藤 亮, 今村 一歩, 新原 正大, 藤井 努, 市川 大輔, 江口 晋, 比企 直樹, 調 ...
    原稿種別: 特別報告
    2024 年57 巻7 号 p. 358-366
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2024/07/31
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    日本消化器外科学会ワーク・イン・ライフ委員会では,2023年に本学会会員に対して行った,「医師の働き方改革を目前にした消化器外科医の現状」に関するアンケート調査の結果を報告した.その中で,消化器外科医は現在の労働環境や待遇が悪いと感じており,進路として消化器外科医の道を後進に勧めることができないと考えていることが明らかになった.そして,地方における消化器外科の診療体制維持のためには,労働環境や待遇の改善が急務であるとの結論を得た.また,今回われわれは,厚生労働省のデータを振り返り,過去20年間の消化器・一般外科医師数が約20%も減少していることを示した.さらに,本学会会員数が過去20年間で10%減少しており,この傾向が続いた場合,10年後には65歳以下の会員数が約25%減,20年後には50%減になると予測された.近い将来,わが国において,消化器外科疾患の診療に支障を来すことは確実であり,その対策として医療者のみならず,広く国民に向けて現在が危機的な状況であることを共有し,消化器外科医に対するインセンティブも含めた待遇改善について理解と後押しをいただくべく,本学会公式ウェブページ内に本記事を掲載した.

    ※インセンティブ:インセンティブとは,英語の「incentive(刺激・動機・誘因)」に由来し,ここではモチベーションを維持・増幅させるための外的刺激(評価制度)のことを意味する.

編集後記
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