抄録
総肝動脈瘤による総肝動脈完全閉塞をきたした膵頭部癌に対し血行再建を行わずに, 門脈合併膵頭十二指腸切除術を施行しえた症例を経験したので報告する. 症例は70歳男性で主訴は黄疸であった. CT検査, MRI検査等により膵頭部癌と診断された. 腹部血管造影にて総肝動脈は造影されず, 固有肝動脈は主として腹腔動脈から胃動脈を介する経路, 背膵動脈から膵十二指腸動脈を介する経路で血流をうけていた. 手術時, 完全閉塞を伴った総肝動脈瘤を認めた. 胃十二指腸動脈の一時的遮断を行っても固有肝動脈は拍動を保持し, 肝の色調の変化を認めなかった. 以上より, 血行再建を行わずに, 側副血行路を温存し, 門脈合併膵頭十二指腸切除術を施行した. 術後経過は良好で合併症がなかったことから側副血行路は充分機能していると考えられた.