直接浸潤により前腹壁に広範な硬結と潰瘍を形成した64歳の男性の肝内胆管癌を経験した.
肝十二指腸間膜を中心とする広範なリンパ節転移と右前区域肝管への浸潤のために試験開腹に終わり, 感染のために, 術後3週間目で内瘻化チューブの抜去を余儀なくされたが, その後, 肝門部方向への癌の進展は緩徐で黄疸の発現はなく, 一方で, 肝鎌状靱帯から前腹壁への直接浸潤による硬結, 腫瘤と癌性潰瘍を形成しながら術後1年8か月に癌死した.
組織学的には高分化型小管状腺癌であり, 腹壁腫瘍に対して放射線療法, 温熱療法および内胸動脈内注入化学療法を行っているが, 認むべき効果は得られていない.
腹壁皮膚に達する肝内胆管癌の腹壁浸潤例の報告は, 文献上きわめてまれで, 本邦では1例の報告があるのみである.