1996 年 29 巻 11 号 p. 2195-2199
腹部放線菌症は比較的まれな疾患であるが, 悪性腫瘍と鑑別が困難で, 術前診断が難しい疾患とされている. 我々は左下腹部腫瘤の患者で画像, 血液生化学検査より本症を疑い, 生検術で本症と診断したので報告した. 症例は44歳の男性で, 左下腹部腫瘤と微熱を主訴とした. 近医でCT, Gaシンチなどの画像検査で腹部悪性腫瘍が疑われ, 当院に入院となった. 入院時, 左下腹部に11×8cmの可動性のない硬い無痛性の腫瘤を認めた. 腫瘤はGaシンチで強い集積像を示し, 微熱, 白血球増多, CRP陽性, 血小板の著増を認め, 炎症性の腫瘤を疑った. SBT/ABPCの投与により, 炎症所見の改善, 腫瘤の縮小を認めた. 15病日のCTで腫瘤内に短い線上の石灰化を認め魚骨穿通による放線菌症を疑い, 22病日生検を施行し本症と診断した. 35病日全身麻酔下に腫瘤摘出術を施行し, 魚骨のS状結腸穿孔による本症と診断した.