抄録
先天性AT-III欠乏症を伴う広範な静脈血栓症が誘因となり腸閉塞をきたし, 開腹手術および保存的治療により軽快した症例を経験したので報告する. 症例は38歳の男性で, 平成7年1月2日に他院にて急性腹症の診断のもと開腹され, 特発性腸間膜静脈血栓症による小腸壊死に対し空腸部分切除術が施行された. 退院後, 嘔吐が出現し, 近医にて腸閉塞と診断され保存的に治療されていたが軽快せず, さらに門脈血栓症が認められたため, 3月20日に当科に転院となった. 精査にて先天性AT-III欠乏症と診断, また小腸に強度の狭窄を認めたため保存的治療を行いつつ, 5月10日に腸閉塞解除術を施行したが血栓症の増悪なく, 7月30日に軽快退院した.
本症例は先天性AT-III欠乏症が基盤にあり, 腹部の広範な血栓症を伴っていたが, AT-III製剤やヘパリン, ワーファリンの投与により術後血栓症を回避し救命しえた貴重な1例である.