抄録
直腸癌を合併した成人腸回転異常症の2例を経験した.症例1は57歳の女性で, 肛門痛と出血を主訴として来院.直腸鏡検査にて2型の直腸癌と診断され, 注腸造影で腸回転異常が認められた.開腹時, 回盲部, 上行結腸は正中部に存在しており, 小腸は右側に大腸は左側に偏位しており無回転症と診断した.直腸癌に対してはD2郭清を伴う腹会陰式直腸切断術を施行した.腫瘍は6.2×3.8cm大でstage Iの腺扁平上皮癌であった.症例2は62歳の女性で, 血便を主訴として来院.直腸Ra部に腫瘍が認められ, 注腸造影にて腸回転異常が疑われた.開腹時, 症例1と同様の所見が認められ無回転症と診断した.直腸癌に対してD3郭清を伴う低位前方切除術を施行した.腫瘍は52×47mm大の2型の直腸癌でstage IIIaの中分化型腺癌であった.2例とも腸回転異常に対しては, 予防的虫垂切除術のみを施行した.腸回転異常症は併存病変の診断治療を困難にする可能性があり, 本症を念頭に置く必要があると考えられた.