抄録
多発性消化管重複症に発生した腺癌の1例を経験したので報告する. 症例は74歳の女性で, 突然右下腹部痛が出現した. 画像検査では右下腹部に腫瘍が示された. 腹部腫瘤の診断にて開腹手術を施行したところ, 回盲部漿膜側に11×4cm大の腫瘍様病変を認め, 術中迅速病理検査にて腺癌と診断された. なんらかの悪性腫瘍の腹膜転移と考え, 回盲部上行結腸切除術を施行した. 切除標本にて腫瘍様病変は回腸と盲腸に開口する2本の重複腸管であり, そのうち盲腸に開口する重複腸管から腺癌を認めた. 近年, 消化管重複症の報告例は増加しているが, 術前診断は困難とされている. また, 本症の多発例や悪性化例の報告はまれである. 自験例のごとく多発性消化管重複症に発生した癌の報告例は検索しえた限りではみられなかった. 自験例が第1例目であると思われる.