2002 年 11 巻 p. 5-21
井上・手塚(1998)は、医療用医薬品の流通に関しなされた1992年の流通改革の意義を理論的に分析し、次の3つの結論を得た。
1)医療用医薬品メーカーの利潤は、改革前の卸売業者への値引補償の額に依存はするが、その額か、ある一定額以上であったとすると、改革後の利潤は上昇する。
2)卸売業者については、改革後に(一時的な可能性はあるが)その利潤は増加する。
3)医療機関の利潤(薬価差益)は減少する。
そこで、公表されている企業財務データから、この理論モデルの結論の現実妥当性を検証したのが本研究である。本研究から、明らかになったことは、1)に関しては、医薬品メーカーの営業利益は改革後、急激に上昇しており、これは販売費・一般管理費の相対的減少によるものであり、流通改革によるものと思われ、さらに販売費・一般管理費の構成費目を分析すると、値引補償額を費用計上すると思われる拡販費が改革後、減少しており、流通改革により不要となった値引補償の一部が営業利益増加の一因となったことが観察できた。また、2)、3)については、流通改革は卸の利益率上昇をもたらしたが、流通改革による新たな取引のやり方から不利を被る医療機関の対抗的な行動を惹起し、価格決定のバーゲニングが複雑化し、行動の変化をもたらしたため、それは一時的なものであったという結論を得た。