医療経済研究
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論文
わが国病院市場の競争形態に関する研究
―わが国の病院市場における競争促進は「価格低下と品質向上」をもたらすか―
河口 洋行
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ジャーナル オープンアクセス

2007 年 19 巻 2 号 p. 129-145

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抄録

「競争は価格の低下と品質の向上(よって利益は低下)をもたらす」という法則(定理)は市場機能のメリットとして広く知られている。この考え方に基づいて、近年わが国の様々な分野に競争促進政策が導入されている。しかし、当該定理が理論的に成立するためには、様々な仮定条件が当てはまる必要がある。携帯電話などの通信市場と同様に医療サービス市場においてもこの法則が有効な競争状態にあるのであろうか。本研究は、わが国の病院市場の競争形態を把握することによって、当該法則が病院市場においても有効になるような競争状態にあるかを検証するものである。
本研究の特徴は、日本の病院市場の競争形態を産業組織論の見地から把握する初めての実証研究という点である。具体的には、わが国の病院市場がサービスの品質引上げを行う非価格競争主体であるか、患者の自己負担額を引き下げる擬似価格競争主体かであるかを検証した。このため、アンケート調査により民間病院の個票データを収拾し、二段階最小2乗法により実証分析を実施した。
その結果、「医業収益率」を被説明変数とした分析モデルにおいて、競争環境を示す説明変数のひとつである二次医療圏毎の「病院密度」の係数は正で統計的に有意であった。このことから、「競争環境が厳しいほど収益率が低い」という先の定理とは逆の関係が確認された。従って、本研究で構築した理論モデルが妥当であれば、わが国の病院市場は、患者の自己負担を低くする「擬似価格競争」よりも、患者に対して非価格要素で競争を行う「非価格競争」の特性をより強く持っている可能性が示唆された。更に政策的示唆としては、わが国の病院市場において競争促進政策を強化すると「品質の向上のみならず、病院医療費の増加を引き起こす」ことが予想される。

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© 2007 本論文著者

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