医療経済研究
Online ISSN : 2759-4017
Print ISSN : 1340-895X
19 巻, 2 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
巻頭言
特別寄稿
  • 南部 鶴彦
    2007 年19 巻2 号 p. 101-110
    発行日: 2007年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    高齢化とともに老人の健康資本は不可避的に磨耗せざるをえない。これによって医療(老人保健)だけでなく、医学的な見地よりも広い意味で身体機能の衰弱をカバーするための介護ケアが必要となる。介護保険制度は老人が自立的に被保険者として介護サービスを需要するものと想定している。そこでこの論文では、老人が医療及び介護サービスを自らの判断で最適に選択するというモデルを構築した。このときキーとなるのが健康資本の概念で、健康人の健康資本の水準をHoとするとき、高齢化によって老人の健康資本はδという率で磨耗していると仮定する。するとt時点での老人の健康資本Htは  Ht=(1−δ) Ho  と表現できる。
    このような概念を導入することにより、介護保険制度の下で医療(老人保健)支出と介護支出との関係がどのように変化するかをδを中心として分析し、要介護度の上昇が与える影響を明らかにした。

論文
  • 花岡 智恵, 鈴木 亘
    2007 年19 巻2 号 p. 111-127
    発行日: 2007年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    2000年4月に施行された介護保険制度導入の1つの目的は社会的入院を是正し医療費を効率化させることにあった。この論文では、介護保険導入による介護サービスの利用可能性の拡大に焦点をあて、それが高齢の長期入院患者の退院確率に与えた影響を分析した。用いたデータは、富山県の国民健康保険老人医療の入院レセプトデータから、介護保険導入前後の約5年間において、疾病コードの情報が得られる3,043人のパネルデータである。入院患者の入院先医療機関が提供する3つの介護サービス―――介護療養型医療施設、デイケア、そして、介護老人保健施設―――の利用可能性拡大が入院患者の退院行動にどのような影響を与えたかをLog-logisticハザードモデルを使用して分析した。分析の結果、介護保険導入による介護療養型医療施設の病床増加は、比較的医療行為の少ない入院患者や、長期入院の傾向にある患者の退院確率を高めたことがわかった。特に、2002年度以降180日超入院の特定療養費化に伴い付加された、長期入院患者を介護療養型医療施設ヘ移行させる誘因となる条件により、介護療養型医療施設の病床増加は長期入院患者の退院確率を大幅に高めた。この結果からのインプリケーションは、第一に、介護保険導入による介護療養型医療施設の病床増加は長期入院患者の退院を促進した。第二に、長期入院患者が介護療養型医療施設などの介護サービスヘ移行することに関して診療報酬上のメリットを提示すると、長期入院患者の介護サービスへの移行は大幅に進む、ということである。

  • ―わが国の病院市場における競争促進は「価格低下と品質向上」をもたらすか―
    河口 洋行
    2007 年19 巻2 号 p. 129-145
    発行日: 2007年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    「競争は価格の低下と品質の向上(よって利益は低下)をもたらす」という法則(定理)は市場機能のメリットとして広く知られている。この考え方に基づいて、近年わが国の様々な分野に競争促進政策が導入されている。しかし、当該定理が理論的に成立するためには、様々な仮定条件が当てはまる必要がある。携帯電話などの通信市場と同様に医療サービス市場においてもこの法則が有効な競争状態にあるのであろうか。本研究は、わが国の病院市場の競争形態を把握することによって、当該法則が病院市場においても有効になるような競争状態にあるかを検証するものである。
    本研究の特徴は、日本の病院市場の競争形態を産業組織論の見地から把握する初めての実証研究という点である。具体的には、わが国の病院市場がサービスの品質引上げを行う非価格競争主体であるか、患者の自己負担額を引き下げる擬似価格競争主体かであるかを検証した。このため、アンケート調査により民間病院の個票データを収拾し、二段階最小2乗法により実証分析を実施した。
    その結果、「医業収益率」を被説明変数とした分析モデルにおいて、競争環境を示す説明変数のひとつである二次医療圏毎の「病院密度」の係数は正で統計的に有意であった。このことから、「競争環境が厳しいほど収益率が低い」という先の定理とは逆の関係が確認された。従って、本研究で構築した理論モデルが妥当であれば、わが国の病院市場は、患者の自己負担を低くする「擬似価格競争」よりも、患者に対して非価格要素で競争を行う「非価格競争」の特性をより強く持っている可能性が示唆された。更に政策的示唆としては、わが国の病院市場において競争促進政策を強化すると「品質の向上のみならず、病院医療費の増加を引き起こす」ことが予想される。

  • 遠藤 久夫, 山田 篤裕
    2007 年19 巻2 号 p. 147-167
    発行日: 2007年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    介護保険制度と類似の形態をもつ公的医療保険制度の機能は、i)医療サービス需要の不確実性の回避、ii)所得に拠らない医療サービスへのアクセス公平性の確保、のニつに大別できる。医療保険制度にこのような機能をもたせた根拠は、医療サービスは健康や生命に直結する極めて必需性が高いサービスだからである。一方、介護サービスすべてが必需性の高いサービスとは限らない。また、介護サービスは医療サービス以上に本人が利用量の決定権をもっている。介護保険制度下では支給限度額以下であれば利用者自己負担の10倍の介護サービスを利用できるので必需性が高くないサービスの場合には、需要の所得弾力は大きく、所得の高い人ほど9割引の介護サービスを多く利用しているということも予想される。この場合には、高所得者は低所得者より介護保険制度からより多くの恩恵を受けていることになる。このように介護保険は、実際の介護サービス利用の公平性を保障することが容易でない制度であるにも関わらず、その公平性に介護保険が及ぼす影響についてはほとんど研究が進んでいない。本研究では「国民生活基礎調査(平成13年)」の介護票を用い、ⅰ)介護ニーズの充足が所得階級間でどれほど相違しているか、そしてⅱ)介護保険制度が要介護者の介護サービスの利用に所得再分配の面でどれほど寄与しているのかについて明らかにした。またこれらの分析過程で、ⅲ)介護サービス利用の公平性に大きな影響をもつ支給限度額の整合性についても検討した。
    分析結果は以下のようにまとめられる。
    ⅰ)介護ニーズに対する介護サービス利用による充足という点では所得階級間の格差はきわめて小さく、ほぼ公平だといえる。ただし介護ニーズおよびサービス利用量の対所得比率は、両方とも低所得者の方で高くなっており、所得に関わりなく自己負担率が一律であることの妥当性について検討の余地がある。
    ⅱ)介護保険制度による所得再分配機能は低所得者の介護サービスの購買力を大幅に高めている。これにより低所得者は介護ニーズに対応したサービス量を購入することが可能となっている。
    ⅲ)支給限度額の設定は要介護度1で高すぎることを除けばほぼ適正と考えられる。また(平成13年度時点では)認知症の程度を要介護度判定に反映させる必要があった。

研究ノート
  • 森 剛志, 松浦 司
    2024 年19 巻2 号 p. 169-183
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿の目的は、開業医において親子間で医師の地位継承が行われているという仮説と、子どもに医師という地位を継承してほしいという期待について、本人が開業医であるという地位属性に影響を受けているという仮説を検証することにある。その結果、以下のことが示された。1つめの仮説に関しては、父親が開業医かつ本人が長男であるとき、それ以外の場合と比較すると開業医となる確率が高くなることが示された。
    2つめの仮説に関しては、本人が開業医であると自分の息子を医師にしたいと期待する確率を上昇させるが、自分の娘に対しては医師にしたいと期待する確率を上昇させる効果は確認されなかった。

feedback
Top