2009 年 21 巻 1 号 p. 55-72
本稿の目的は、国民の混合診療に対する賛否の規定要因を明らかにすることである。それに加えて、どうしてそのような考えを持つのか、混合診療に対する認識を規定する要因についても明らかにする。データは2005年12月に筆者らが実施したアンケート調査であり、鈴木・齋藤(2006)で用いられたものを再び利用する。このデータはインターネット調査専門の調査会社に委託した、モニターを使ったインターネット調査によって得られた。
混合診療の賛否を規定する要因はいくつか考えられるが、特に「支払い能力」と「健康状態」に着目して、二つの仮説が整理できる。支払い能力の高い人は自由診療を受診する金銭的余裕があることに加えて、混合診療の解禁によって保険給付が受けられるようになる点で有利になるため、支払い能力が高い人ほど混合診療の解禁に賛成すると予想される。また健康状態に着目した場合、自由診療へのニーズが高い人ほど、すなわち健康状態が悪い人や健康リスクのある人ほど混合診療の解禁に賛成すると予想される。そこで混合診療の賛否に対してどのような要因が決定的であるのかを、Ordered Probit Modelによって分析した。
結果は当初の予想とは異なるものであった。支払い能力については中所得・中高資産層ほど混合診療の解禁に賛成し、健康状態が悪いほどあるいは健康リスクがあるほど混合診療の解禁に反対するという結果が得られた。このほかに、医療の知識があるほど混合診療の解禁に賛成、医療・福祉職にある場合ほど混合診療の解禁に反対するという結果となった。
推計結果を考察すると、次のような示唆が得られた。(1)混合診療解禁に対するインセンティブは、支払い能力が高い層より、むしろ中間層で大きい。(2)健康状態の悪い人が混合診療の解禁に反対する理由として、混合診療の解禁が公的保険給付水準の低下をもたらすと考えられている可能性がある。(3)国民の混合診療の賛否に、医療需要者側と医療供給者側の立場の違いが影響を与えている。