2014 年 26 巻 1 号 p. 43-58
わが国では急速な高齢化が進行しており、介護を必要とする者が増え続けている。それにともない、親・義親の介護に携わる現役世代の数も増え続けている。今後、高齢化が進むにつれ、親の介護に直面する者の数はさらに増えることが予想される。家族に介護が必要になったとき、現役世代の介護者は、離職や就職の断念、仕事時間の短縮などを余儀なくされる可能性がある。介護が就業に与える影響を分析したわが国の先行研究では、介護への従事は外生的に決定されると仮定されてきた。しかし、介護と就業は同時決定の関係にあり、介護負担を外生変数として扱うことは推定結果にバイアスをもたらす可能性がある。また、身体介護と家事援助など、介護の種類が異なれば、介護が就業に与える効果は異なる可能性が考えられるが、わが国の先行研究では考慮されていない。そこで、本研究では、操作変数法を用いることで、介護負担の内生性を考慮した推定を行った。また、介護負担の指標としては、1週間の平均的な介護時間に加え、その内訳である身体介護時間、家事援助時間を用いた推定も行った。用いたデータは、「在宅介護のお金と暮らしについての調査」である。対象は、65歳以上の親・義親と同居する者である。実証分析の結果、介護が、就業確率、労働時間、収入を下げることを示した。介護の影響は、男女とも介護時間(合計)よりも、身体介護時間や家事援助時間の方が大きかった。このことは、身体介護や家事援助の負担が、見守りなどその他の介護よりも、介護者の心身に対する負担が重いことを反映していると考えられる。就業関連の従属変数に介護が与える影響は、男性よりも女性の方が大きかった。それに対し、余暇時間に対する影響は、男性の方が大きかった。これは、男性の場合、一家の中心的な稼得者であるため、介護時間が増加しても労働時間を減少させず、その分、余暇時間を減らしていることを反映していると考えられる。男性の場合、身体介護の方が家事援助よりも、就業確率、労働時間、収入に対する影響が大きかった。それに対し、女性の場合、家事援助の方が身体介護よりも就業確率、労働時間、収入に対する影響が大きかった。余暇時間と女性の収入の分析を除いて、介護負担は外生変数であった。