2015 年 27 巻 1 号 p. 2-39
本稿では、2008年度から始まった特定健診•特定保健指導の施策効果について、プログラム評価の計量経済学的手法を使って計測を行った。本稿の分析に用いているデータは、福井県と東京大学高齢社会総合研究機構との共同研究で作成された福井県全市町の国保加入者における特定健診受診者の個票データである。2008年度から2010年度までの3年間継続して特定健診を受診しているサンプルについて分析を行った。
特定保健指導の処置効果(施策効果)を測定するためには、スクリーニングを伴うデータに生じやすい「平均値への回帰」効果を調整することが不可欠であり、①処置前値をコントロールした固定効果モデル、②マッチング、③差分の差推定を用いて、主に特定保健指導の階層化の第一ステップである腹囲とBMIが一定以上の高値をとる者(基準超者)について、特定保健指導の処置効果を計測した。
本稿の分析から得られた結論は下記の通りである。
1)特定保健指導の対象となったことによる腹囲への減少効果は、全く存在しないか(固定効果モデル、マッチング)、年率換算で約0.3~0.4%程度(固定効果モデル)にすぎない。
2)一方で、BMIへの効果は有意に存在しているが、その効果は、年率換算で約0.4%(マッチング)~約0.5%(固定効果モデル、マッチング)減少させる程度である。
3)固定効果モデルにより、特定保健指導を利用することの効果を計測すると、基準超者で利用しなかった場合に比べて、腹囲について年率換算で約0.4%、BMIについて約0.6%減少する効果が認められる。
4)動機付け支援に比べて、積極的支援の方が大きな効果があるかどうかを検証すると、腹囲については固定効果モデル、差分の差推定の両方で、効果を確認できない。
5)一方で、BMIについては、固定効果モデルでは対象者、利用者ともに効果が確認できなかったものの、差分の差推定では、積極的支援の対象になる方が動機付け支援対象になるよりも年率換算で約0.5%、減少効果が大きいという結果になった。