抄録
日本で2008 年以降行われている特定健康診査(メタボ健診)においては、健康の保持に努める必要がある人々に対して特定保健指導が行われているが、我々の知る限り、ランダム化比較試験のような因果関係を厳密に明らかにできる手法を通じた特定保健指導の効果の検証は行われていない。 特定保健指導の対象となる基準によれば、65 歳未満の男性が、腹囲が85cm 未満で、高血圧・脂質異常症・糖尿病の3 つの生活習慣病のリスクを全て満たす(喫煙者の場合は2 つ以上)という条件を満たしている場合、BMI(Body Mass Index, 体重(kg)を身長(m)の2 乗で割ったもの)が25 以上であれば、情報提供に加えて積極的支援の対象となり、25 未満の場合には、情報提供しか行われない。この点に着目して、観察研究から因果関係を明らかにする手法である回帰分断デザイン(以下ではRDD)を使って、上記の男性を対象として、BMI の数値が25 をカットオフとして、10 年間の循環器疾患リスク、腹囲、BMI、収縮期血圧、HbA1c、LDL-C、HDL-C をアウトカム指標として、積極的支援の対象者となることが、情報提供のみの場合と比べて、アウトカム指標を改善させる効果があるかどうかを検証した。
データは、1健康保険組合の組合員の2013 年から2015 年のメタボ健診の受診者のうち、2013 年に上記の条件を満たした1,318 名のデータを使用し、2013 年のBMI をカットオフとして、2014 年と2015 年のアウトカム指標の改善の有無をRDD によって検証した。 分析結果によれば、2014 年のHDL-C を除いて、いずれのアウトカム指標においても積極的支援の不対象者と対象者の間で有意差はなく、積極的支援の対象者となることの効果があるとは言えなかった。2014 年のHDL-C については積極的支援の対象者の方が有意に小さかったが、プラシボテストとして行われた2013 年のアウトカム指標の比較において既に有意に小さかったため、2014 年の有意差が積極的支援の対象者となったためであるとは判断できなかった。
本研究は1 健康保険組合の男性組合員に限った分析で、かつ、ごく限られた範囲による分析しか行われていないため、サンプル数が著しく少なく、分析結果を一般化することが困難である。