人文地理
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論説
ベトナム紅河デルタにおける農地整備の制度分析―タイビン省ティエンハイ県の事例からの検証―
チャン アイン・トゥアン
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2006 年 58 巻 1 号 p. 20-39

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抄録

ベトナムでは1986年以降,社会主義下での市場経済導入をめざしてドイモイ(刷新)政策が急速に推進され,活力をとりもどしつつある。とりわけ農業部門では,1988年の共産党決議によって農業合作社と耕作農民の間に農地契約システムが導入された。1993年の土地法ではその方式がいっそう拡大され,農民が20~50年の長期的かつ永続的に土地を利用できる道が開かれた。そのため,農業生産の合理化にとって,零細な耕作地が分散していることは深刻な問題を投げかけている。このような農地分散は,程度の差こそあれ,ベトナム全土で共通してみられる。

本稿は,現代ベトナムにおける農地制度の大きな変革である農地改革と農地分散を軽減するための農地整備過程を一連の流れとして扱い,地理学の立場から両者の制度分析を目的とする。具体的な研究の重点は以下の3点である。(1)1945~1953年の農地改革の過程とその功罪の評価,(2)国・行政村レベルにおける農地整備の制度的分析,(3)行政村レベルにおける農地交換分合・整備の実施手順の分析とその経済効果の計測。事例としては,とくに農地分散の著しいベトナム北部紅河デルタの沿岸農村地帯であるタイビン省ティエンハイ県をとりあげた。

その主要な結果は,以下の2点に要約される。

第1に,1953~56年の期間にベトナム北部農村で実施された農地改革は3つの段階を経て実施された。この改革の主要な目的はフランス人植民者,郷紳,地主などの旧勢力の影響を排除することであった。政府は彼らの土地を接収して,81万ha以上の農地を210万4138人の土地無し層や832万3636人の農民・農業労働者に再配分した。

第2段階としての農地整備過程の重要な結果として,ドンロン行政村(=社)の例では,細分化した耕地の筆数が約50%減少し,加えて,農村に以下のような影響をおよぼしている。(1)農民は自宅と農地間の移動距離を短縮することができた。ゆえに,労働コストを削減することができ,純利益が増加した。(2)行政村レベルでの農業生産における人民委員会や農業合作社の管理法が,共有地の合筆と長期発展計画の策定が可能になったことで合理化された。

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© 2006 人文地理学会
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