人文地理
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論説
精神障害者の地域ケアにおける通過型グループホームの役割―「ケア空間」の形成に注目して―
三浦 尚子
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2016 年 68 巻 1 号 p. 1-21

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抄録

本稿は,障害者自立支援法施行に伴って制度化された東京都の通過型グループホームが,精神障害者の地域ケアにおいて果たす役割について,R 自治体内における通過型グループホームの事業者および入居者に対する質的調査に基づき,「ケア空間」「あいだの空間」という分析概念を用いて検討した。その結果,以下の知見が得られた。通過型グループホームの入居者は,精神科病院の退院条件であるか,家族との関係が悪い場合が多く居住地を選べない,ほかに生活環境を転換する術をもたないことを入居の理由としており,必ずしも本意に基づく選択ではないことが明らかとなった。しかし入所後,入居者は施設内に設置された交流室にて,職員や他入居者との間で無条件の肯定的配慮や共感的理解の態度で形成される「ケア空間」を通して,新たな主体性を出現させて自尊を獲得し,生への希望を見出していた。事業者は通過型グループホームを「あいだの空間」と位置づけ,単身生活への移行を障害者の自立とみなす国や行政機関の見解に即してその役割に肯定的であったが,入居者にとっては別の希望の空間へと向かうために重要な物理的・社会的な空間であるといえる。

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© 2016 一般社団法人 人文地理学会
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