人文地理
Online ISSN : 1883-4086
Print ISSN : 0018-7216
ISSN-L : 0018-7216
論説
石川県能登島における生業組み合わせからみた漁家漁業の存立構造
松井 歩
著者情報
ジャーナル フリー

2019 年 71 巻 2 号 p. 127-150

詳細
抄録

2013年漁業センサスによれば日本における漁家の兼業率は50.3%であり,約半数の漁家が漁業以外にも何らかの仕事を持っている。本稿では漁家の生業組み合わせに着目し,石川県能登島における漁家漁業の存立構造を明らかにした。事例地域を囲む七尾湾は閉鎖度の高い内湾であるため,通年で波の低い穏やかな海域で沿岸漁業を営みやすい。そのため,漁業者は世帯の戦略に合わせて多様な漁業種類を組み合わせていた。事例地域においては農業や賃労働,観光業などの生業も組み合わされ,世帯ごとに多様な労働力配分の中で漁家漁業が存立していた。個人・世帯・集落スケールで生業間の関係性を検討すると,海洋環境や地形,インフラの整備などの自然・社会的環境条件,漁業種類の専門性,個人のライフスタイルなどが世帯における生業組み合わせや漁業形態に影響することが明らかとなった。以上から,事例地域における漁家漁業は漁業単独ではなく多様な生業や世帯の戦略を軸に,各スケールにおける自然・社会・文化諸因子の動態的な関係下に存立する。ただし,主たる漁業従事者の高齢化やその子世代の就業形態の変化から,事例地域における漁家漁業が現在の構造のまま維持され続けることは困難である。そのような状況下で,本稿の知見は複数の生業組み合わせを前提とした地域と世帯への総合的な施策がローカルな小規模漁業の維持存立に有効であることを示した。

著者関連情報
© 2019 一般社団法人 人文地理学会
次の記事
feedback
Top