人文地理
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研究ノート
大規模住宅団地の住民による「初期不良」問題の克服―泉北ニュータウン泉ヶ丘地区を例に―
市道 寛也
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2020 年 72 巻 4 号 p. 383-401

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抄録

現在,人口の都心回帰が進む一方で,郊外団地の高齢化や人口減が顕著に現れており,従来の都市空間構造が転換し,都市圏での新たな分極化が進行している。郊外団地の問題が注視される中,郊外団地の現代史を開発初期に遡って紐解く作業は重要となっている。その作業の一環として本研究では,大阪府堺市の泉北ニュータウン泉ヶ丘地区を対象に,造成初期に発生した「初期不良」問題に注目し,その問題を府営団地の住民が克服する経緯を明らかにした。その上で,住民が「初期不良」問題を解決するプロセスの中で,計画的に整備されたニュータウンの建造環境が住民にどのような影響を与えたのか,そしてどのような住民が主体的に行動し,問題を克服したのかを検討した。泉北ニュータウンの造成初期には,インフラ整備を担う堺市の財源不足などが要因となり,「初期不良」問題が大量に発生した。造成初期に居住していた府営団地の住民は,近隣センターや団地内の集会所で交流を深め,様々な問題に対する不満を共有した。そして,住民は共有した意見を基に,自治会や有志の会などの住民組織を立ち上げ,住民自身によって,あるいは行政に対するインフラ整備の要求という住民運動によって問題を克服した。特に交通問題や保育所問題では,切実な思いを持つ住民が問題の克服を先導したことが明らかとなった。

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© 2020 一般社団法人 人文地理学会
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