人文地理
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研究ノート
太平洋戦争中に実施された京都市の建物疎開における強制移動―世帯特性と移転先との関係性の分析―
藏田 典子
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2022 年 74 巻 4 号 p. 429-447

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抄録

歴史上,人々が自分の意思に反して居住地や故郷を追われる強制移住は,世界各地で発生している。強制移住を引き起こす要因は,戦争や民族紛争,地震や洪水などの自然災害,土地開発など様々である。移住を余儀なくされた人々は,経済的困窮やアイデンティティの問題に悩まされることが多く,世界的な問題となっている。その一例が,太平洋戦争末期に日本各地で行われた建物疎開である。本研究では,京都市における建物疎開に着目し,強制疎開者の社会的属性と移転先の関係を探った。強制疎開者の移転先を明らかにするために,京都府の行政文書を分析し,また移転先を決定する要因を調べるため聞き取り調査を行った。その結果,家族関係や職業関係などの地域的つながりが移転先の決定に深く関係していることが示唆された。強制疎開者の多くは京都市内に移転したが,京都市外に移転した世帯は,単身者,女性や無職の世帯など,社会的弱者であることが多かった。この傾向は,終戦が近づくにつれてより顕著になった。経済状況が厳しくなるにつれて,遠方に転居する世帯は主に社会的弱者によって構成されることになった。

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© 2022 一般社団法人 人文地理学会
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