人文地理
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74 巻, 4 号
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研究ノート
  • 大島 明
    2022 年 74 巻 4 号 p. 389-407
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/14
    ジャーナル フリー

    現代,氏神の祭りにおいて,その担い手は,必ずしも氏子区域の居住者ではなくなった。その1例として,京都市西院の春日祭における担い手について,その居住地の変遷を明らかにすることが本稿の目的である。資料として,1967年と2016年の『神輿輿丁名簿』を用い,そこに登載された輿丁の居住地を個人レベルで分析した。春日祭では,近代初頭,氏子区域の集落(「旧町」)を東西に2分し,それぞれの神輿は区域内の輿丁で担われていた。京都市との合併前後から進行した都市化にともない,輿丁の減少が始まった。戦後,都市化により流入人口が増加した。しかし,輿丁になる者は少なく,神輿渡御祭の存続が困難になった。そこで,相互協力組織として京都神輿愛好会が設立され,区域外から輿丁が導入された。これにより,神輿渡御祭は存続された。しかし外部からの応援が大多数になると,神輿巡幸の主導権を氏子がいかに維持するかが課題となった。そのため,氏子の組織はその増強を図ったのである。その結果,2016年には氏子の輿丁は増員され,その居住地は「旧町」のみならず氏子区域の全域に拡大した。また,区域外では輿丁の居住地は京都市全域のほか遠隔地の長野県にまで及んだ。

  • 栗林 梓
    2022 年 74 巻 4 号 p. 409-428
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/14
    ジャーナル フリー

    本稿は,大学進学や学生生活の経済的,心理的な負担を軽減する可能性を有する住まいとして異世代ホームシェアに着目した。そして,異世代ホームシェアを推進する「京都ソリデール事業」の展開と学生の利用実態の両面から,その可能性と課題について探求した。京都ソリデール事業は,行政,マッチング事業者,学生,高齢者の大きく4主体によって成り立つ。事業が高齢者や学生から信頼を得るには,行政やマッチング事業者の果たす役割が大きい。学生は,大学進学と同時に異世代ホームシェアを始めるよりも,学生生活の途中から入居することの方が多い。この理由として,①異世代ホームシェアを知る契機の違い,②マッチング事業者や高齢者からの信頼度の違い,がある。また,異世代ホームシェアを開始した学生は,入居によって生まれた,経済的,心理的,時間的余裕や,高齢者との関係から,学生生活を変化させていた。こうした観点から,異世代ホームシェアは,学生が心地よいと感じる心理的状況,関係性,場所として,学生生活を支えるホームとなりうると結論づけた。ただし,異世代ホームシェアにおけるホームは可変的であり,その構築にも不安定化にも繋がる。以上より,学生の住まいの問題と大学進学・学生生活といった教育の問題を架橋する時,物的な建物のみならず,心地よく学びに集中できるホームまでをも内包した教育空間に注目すべきであると主張した。

  • 藏田 典子
    2022 年 74 巻 4 号 p. 429-447
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/14
    ジャーナル フリー

    歴史上,人々が自分の意思に反して居住地や故郷を追われる強制移住は,世界各地で発生している。強制移住を引き起こす要因は,戦争や民族紛争,地震や洪水などの自然災害,土地開発など様々である。移住を余儀なくされた人々は,経済的困窮やアイデンティティの問題に悩まされることが多く,世界的な問題となっている。その一例が,太平洋戦争末期に日本各地で行われた建物疎開である。本研究では,京都市における建物疎開に着目し,強制疎開者の社会的属性と移転先の関係を探った。強制疎開者の移転先を明らかにするために,京都府の行政文書を分析し,また移転先を決定する要因を調べるため聞き取り調査を行った。その結果,家族関係や職業関係などの地域的つながりが移転先の決定に深く関係していることが示唆された。強制疎開者の多くは京都市内に移転したが,京都市外に移転した世帯は,単身者,女性や無職の世帯など,社会的弱者であることが多かった。この傾向は,終戦が近づくにつれてより顕著になった。経済状況が厳しくなるにつれて,遠方に転居する世帯は主に社会的弱者によって構成されることになった。

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