人文地理
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研究ノート
漁業地理学における伝統的定置漁具,石干見の記述をめぐって―吉田敬市と藪内芳彦の研究を中心に―
田和 正孝
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2023 年 75 巻 1 号 p. 25-47

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抄録

石干見は,潮汐の変化が顕著な沿岸部に石垣を組み,満潮時に接岸した魚群をこのなかにとどめ,干潮時にこれらを漁獲する,伝統的な大型の定置漁具である。本稿では,この漁具が日本の漁業地理学のなかでいかにとらえられ,地理学者はどのような記述を残してきたのかを,1950年代から1970年代にかけて発表された研究に注目しながら検討する。最初に石干見の記録を残した地理学者は,吉田敬市である。吉田は,有明海に存在する石干見漁が,自然環境に応じておこなわれる特徴的な漁業形態であることを明らかにした。続いて藪内芳彦が,漁具の発展段階と世界的な分布について考察するなかで,石干見にも注目した。その後,藪内の研究をふまえて,1960年代,1970年代を中心に世界各地の沿岸域にて調査・研究に従事した地理学者によって,石干見が漁撈(漁業)文化を考えるひとつの指標としてとらえられ,多くの記述が残された。しかし,1980年代になると,石干見に関する研究や記述はほとんどみられなくなった。主たる理由としては,漁具の分布や伝播の問題を究明する漁撈(漁業)文化研究に方法論的な限界が生じたこと,各地の石干見が現代的な漁船漁業の発展にともなって無用化し,それに応じて研究者の注目度が急激に低下してしまったこと,が考えられる。

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© 2023 一般社団法人 人文地理学会
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