高度成長期の大都市圏においては,豊かな物質生活のためになされる余暇を活用した内職が登場してきたという認識が,「レジャー内職」という言葉で表現された。神奈川県の内職行政関係者は,「レジャー内職」が含意するような変化が起こりつつあると認識していた。内職者の経済的切迫性が薄らいでいることは,内職斡旋事業利用者の属性からも見て取れるが,20~40歳台の低学歴女性が利用者の中心を占めていることや,勤労者世帯一般と比べて内職者世帯の所得が低く,内職斡旋事業利用者の世帯所得が特に低いことは変わらなかった。本稿の後半では,非表象理論を援用して内職斡旋事業利用者の体験記を読み解く。情動や感情,身体性,物質性,関係性に着目して体験記を読み解くことによって,「内職する身体」の存在が配偶者や子供との間に新しい相互作用を生み出し,新たな家族関係が生成してくることが明らかになった。内職体験記の寄稿者の内職は余暇活用という意味での「レジャー内職」ではなかったが,彼女たちには得られた工賃を消費する裁量があった。内職者による消費は,物質的な豊かさの実現のみならず,近代家族規範の下でより「良い」家族になっていくことと結びついていた。体験記を書くという実践は,内職に付随する暗さを払拭しようとする,寄稿者の表象のポリティクスとしても理解できる。