抄録
口腔癌の治療においては,生存率の向上のみならず器官温存も患者のQOLの面から重要な課題である。放射線化学療法後に適切な手術法を決定するには正確な治療効果判定が不可欠である。本論文では,器官温存の観点から術前療法ならびにFDG-PET診断の役割について検討した。口腔扁平上皮癌35例に対して放射線併用動注化学療法(THP-ADM,5-FU,CBDCA)を行い,FDG-PETで評価した。全例,治療前後にPET検査を施行し,臨床的,組織学的治療効果と比較した。FDG集積値はstandardized uptake value(SUV)を用いて定量した。本療法により奏効率100%(CR率71%,pathological CR rate 83%)の結果が得られた。治療前pre-SUVは治療後に有意に減少した(p<0.01)。pre-SUV 7.0以上の群では25例中6例に治療後腫瘍細胞の残存がみられた。一方,pre-SUVが7.0より小さい腫瘍では10例全例治療は奏功し,腫瘍細胞はみられなかった。post-SUVが4以上では治療した13例中6例にviable cellの残存がみられ,post-SUVが4より小さい腫瘍では22例中全例腫瘍の残存はみられなかった。pre-SUVから治療効果の予測が,post-SUVから残存腫瘍の有無についての予測が可能であったことから,FDG-PET診断により手術の回避(10例)あるいは縮小手術(19例)が可能になった。5年以内に局所再発はみられず3年生存率は86%であった。FDG-PETはQOLの向上につながる極めて有用な診断法と考えられた。