抄録
今回我々は,cyclin D1遺伝子の数的異常が,口腔扁平上皮癌におけるクローナルマーカーとなりえるか検討した。口腔扁平上皮癌一次症例32例の原発巣と転移の疑われたリンパ節より,穿刺吸引(FNA)にて検体を採取し,蛍光in situ分子雑種法(FISH法)によりcyclin D1遺伝子のコピー数を調べた。その結果,原発巣においてcyclin D1遺伝子の数的異常が認められた症例では,リンパ節に転移が認められた場合,リンパ節においても同様な異常が認められた。一方,原発巣で同遺伝子の数的異常が認められなかった場合は,転移リンパ節においても認められなかった。32例中30例において,原発巣とリンパ節のcyclin D1遺伝子の状況は一致していた。今回の研究により,cyclin D1遺伝子の異常はリンパ節転移が生じる前,原発巣で起こっており,口腔扁平上皮癌におけるクローナルマーカーの有望な候補遺伝子であることがわかった。