抄録
高リスク乳頭癌では甲状腺全摘術が推奨されるが,一期的な全摘術には両側反回神経麻痺の危険性が存在する。両側麻痺を回避するために,術中の病態によって手術を2回に分けるstaged thyroidectomyの意義を論述する報告が海外には少なくない。提示した症例は術前に声帯麻痺を認めなかったものの,画像診断から両側反回神経浸潤が疑われた。両側反回神経麻痺を回避するために,当初から手術を2回に分割する方針とした。左葉切除の際には腫瘍に巻き込まれた反回神経を顕微鏡下に剥離温存し得た。術後の反回神経麻痺を認めなかった事を確認した上で,右葉切除を行った。腫瘍浸潤のために神経繊維束を1本のみ温存し得た。術後に神経麻痺を認めたが,3ヶ月後には声帯の可動性は回復した。Staged thyroidectomyは両側反回神経麻痺を回避すると共に予後を不良とする手術ではなく,選択する価値があると考えられる。