2001 年 27 巻 3 号 p. 591-594
口唇・下顎・舌正中切開による上咽頭癌切除術の実際について述べた。この術式は下口唇, 下顎骨, 舌を喉頭蓋の基部まで正確に正中で切開し, 上咽頭に対する良好な視野を得る方法である。同時に頸部からの操作で, 内頸動脈を上方まで剥離しておくことにより, 安全な上咽頭癌の一塊切除が可能となる。上咽頭の欠損は遊離前腕皮弁で再建し, 咽頭と頸部の交通を確実に遮断する。この術式の利点は舌を正中で切開するため, 舌下神経や舌神経の損傷の危険がなく, 術後の機能障害が少ないことである。上咽頭癌に対して手術がおこなわれることは決して多くないが, 遊離皮弁による再建手術の定着と画像f診断の急速な進歩によって, 以前より安全で確実な手術が可能となってきている。解剖学的に到達の困難な上咽頭に対しては, さまざまな方向からのアプローチが報告されているが, この術式も有用な手術法の一つと考えられる。