魚類学雑誌
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駿河湾産ミズウオの食性について
久保 田正上野 輝彌
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1970 年 17 巻 1 号 p. 22-28

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抄録

1964年から1969年にかけて駿河湾の二保半島に打上げられた36尾のミズウオを材料として食性の調査を行なった.胃内容物には食物の選択性は全くみられず, 大小様々の色, 形, 硬軟のものが含まれていた.これらを大別すると腔腸動物, 環形動物, 節足動物, 軟体動物, 棘皮動物, 原索動物, 魚類, その他の8群になる.駿河湾における水産上の重要種スルメイカ, サクラエビ, カタクチイワシ, タチウオ, キアンコウ等は高い被捕食率を示している.年間に打上げられる数から察して駿河湾のミズウオの数は決して少ないものでなく, 水産上無価値であることと相まって害魚の1種とみなされる.今回の調査での摂餌率 [(胃内容物重量/体重) ×100] は最高70%に達していた.ミズウオの胃内容物には湾の表, 中, 底層に棲む生物が含まれていた.歯の形と食餌との問には特に関係が認められないが, 大型の獲物を呑みこむ際, 胃に入り切れない部分を切断するのに役立っていた.また歯は獲物の胴部の筋肉を鋭く切っており, 運動を弱めるのに役立っている.Haedrich等の報告によると北大西洋と南東太平洋のミズウオの胃内容物の構成は非常に似ており, 魚の共通種及び近縁種は39%にも達しているが, 駿河湾の場合これらとほとんど類似性がない.北大西洋, 南東太平洋のミズウオはバダカイワシ類をほとんど食べておらずミズウオの幼魚が13-16%に達しているが, 駿河湾のものはかなりのバダカイワシ類を食しており, ミズウオの幼魚は全く食べていなかった.これらの事実からミズウオは特に食餌に対する選択性を示さず, その胃内容物はそれぞれの海域でミズウオの属する動物社会の構成を反映していると考えて良いであろう.また今回の資料はミズウオが駿河湾で産卵繁殖していないことを示唆している.

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