魚類学雑誌
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17 巻, 1 号
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  • 千田 哲資, 星野 暹
    1970 年 17 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 1970/04/15
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    岡山県を中心とする瀬戸内海の一部にウロハゼを対象としておこなわれるはぜつぼ漁業の漁期は6月下旬-8月上旬, 漁場は沿岸の浅海域で, 漁期を通じ日々の漁獲率は20%程度である.はぜつぼで獲れるのはほとんどウロハゼに限られ, 他にはテンジクダイ, メバルなどが極く稀に漁獲される.1個のつぼで同時に獲れるウロハゼは1尾または2尾である.1尾のときは雄または雌で前者であることの方が多い.2尾のときは原則として雌雄で, 通常雄の方が大きい.雌の卵巣は発達し, つぼに入るのは産卵前行動としての巣ごもりである.近年一部の地方で用いられている木箱による漁獲率は従来のはぜつぼによるそれよりよく, ウロハゼの産卵室としてよりすぐれている.はぜつぼ漁業が漁業として成立することは, 天然の産卵室が相対的に不足していることを示すと考えられる.産卵群は体長により四つの成分に分けられるが, これらの各成分が各年令群に対応するか否か明らかでない.雌は雄よりも成長が遅いように思われ, 最大体長は雄が大きい.全国的にみたとき本種はほとんど利用されていない.食用としての利用とともに, 海産動物の幼生飼育にあたって餌料として本種の孵化仔魚を利用することも可能と思われる.
  • 千田 哲資, 和田 功
    1970 年 17 巻 1 号 p. 7-13
    発行日: 1970/04/15
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    はぜつぼ漁法により捕獲したウロハゼに水槽内で産卵させ産卵行動を観察した.巣ごもりに先立つ雄の雌に対する誘引・追尾行動はみられず, また巣や雌をめぐる雄同志の闘争も顕著でなく, いつとはなしに特定の組合せが決まって巣ごもりに入る.巣ごもりの組合せはある程度不安定で, 一時強制的にひき離された後では相手を変えることもある.巣ごもりを始めてから10時間-6日後に産卵するが, それに先立って擬似産卵行動がみられる.水槽内の巣箱への産卵行動について写真を示した.1腹の産卵数は約6万粒で, 巣の天井と側壁に1層に産みつけられる.産卵が終わると雄魚が卵を保護するが, 個体によっては必ずしもその仕事に熱心でない.反面巣を乱されることに対して鈍感で, 自分の卵を食うことは稀であった.産卵後の雌がすべて死亡するかどうかには疑問があり, 少なくとも若い雌の一部は翌年まで生き延びて産卵する可能性があると考えられる.
  • 藤井 武人
    1970 年 17 巻 1 号 p. 14-21
    発行日: 1970/04/15
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    コチ科魚類における雌雄同体性をあきらかにする研究の一環としてアネサゴチ (Onigocia macrolepis) の雌雄性を研究した結果, 機能的には雄性先熟の性転換が行なわれていることがわかった.
    本種は全長が150mmに達しない小魚であって産卵期は10~11月, 寿命は長くとも3年と推測される.性転換の行なわれる体長範囲は60-100mmであり, 75-85mmの時に最も多くの魚が性転換を行なう.体長に対して性比はS字状に変化し, 全体としては性転換が規則正しく行なわれることを示している.
    成長過程の初期に, 組織の未分化な生殖巣は精巣のみの状態を経ることなく, 直接両性生殖巣に分化する.両性生殖巣は背側に卵巣部分が, 腹側に精巣部分がそれぞれ位置する二重の構造になっている.卵巣部分に腔所がない点でイネゴチやメゴチの両性生殖巣と形態的に異なっている.両性生殖巣では精巣組織のみが成熟する.両性生殖巣の精巣組織が退縮するにしたがって卵巣部分に卵巣腔, 卵巣薄板が形成され, ついには両性生殖巣が卵巣へと移行する.
  • 久保 田正, 上野 輝彌
    1970 年 17 巻 1 号 p. 22-28
    発行日: 1970/04/15
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    1964年から1969年にかけて駿河湾の二保半島に打上げられた36尾のミズウオを材料として食性の調査を行なった.胃内容物には食物の選択性は全くみられず, 大小様々の色, 形, 硬軟のものが含まれていた.これらを大別すると腔腸動物, 環形動物, 節足動物, 軟体動物, 棘皮動物, 原索動物, 魚類, その他の8群になる.駿河湾における水産上の重要種スルメイカ, サクラエビ, カタクチイワシ, タチウオ, キアンコウ等は高い被捕食率を示している.年間に打上げられる数から察して駿河湾のミズウオの数は決して少ないものでなく, 水産上無価値であることと相まって害魚の1種とみなされる.今回の調査での摂餌率 [(胃内容物重量/体重) ×100] は最高70%に達していた.ミズウオの胃内容物には湾の表, 中, 底層に棲む生物が含まれていた.歯の形と食餌との問には特に関係が認められないが, 大型の獲物を呑みこむ際, 胃に入り切れない部分を切断するのに役立っていた.また歯は獲物の胴部の筋肉を鋭く切っており, 運動を弱めるのに役立っている.Haedrich等の報告によると北大西洋と南東太平洋のミズウオの胃内容物の構成は非常に似ており, 魚の共通種及び近縁種は39%にも達しているが, 駿河湾の場合これらとほとんど類似性がない.北大西洋, 南東太平洋のミズウオはバダカイワシ類をほとんど食べておらずミズウオの幼魚が13-16%に達しているが, 駿河湾のものはかなりのバダカイワシ類を食しており, ミズウオの幼魚は全く食べていなかった.これらの事実からミズウオは特に食餌に対する選択性を示さず, その胃内容物はそれぞれの海域でミズウオの属する動物社会の構成を反映していると考えて良いであろう.また今回の資料はミズウオが駿河湾で産卵繁殖していないことを示唆している.
  • 田村 栄光, 本間 義治
    1970 年 17 巻 1 号 p. 29-36
    発行日: 1970/04/15
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    小型の年魚であり, 春季に産卵のため遡河するシロウオの生活形をよりよく理解する目的で, 前報 (視床下部―下垂体系) に引続き本種の一生にわたる材料を採集して, 下垂体の標的器官のうち, 甲状腺, 間腎組織 (副腎皮質), 両生殖腺を選び組織学的変化を追跡観察した.甲状腺は, 腹大動脈に沿ってその前部に散在している戸胞群よりなり, 海で生育しているものでは機能が低下している.ついで, 遡河初期の先発群の甲状腺は比較的活動が高いが, 後続群では遡河末期に至る群ほど低くなるので, 浸透圧調節に関与しているとは思われない.一方, 産卵場の個体では最高の亢進状態に達していたが, 雌の方で雄に比しより激しい退行蕩費像を示した.間腎組織の増大には, 生殖腺の成熟に伴う目立った変化が認められないが, 産卵場の個体では退行像を示した.シロウオ卵巣卵の発育は同時的であり, 遡河後産卵場に至るまでの問に急速に成熟する.放卵後の卵巣には多数の排卵痕がみられるが, 黄体が完成しないうちに発死してしまう.精巣は管状で, 貯精嚢などの付属腺をもたず, 精虫の発達は同時的ではないが, 産卵場において完熟する.しかし, 雄魚の死後にも精巣腔中に相当數の残存精虫が認められた.
  • 谷内 透
    1970 年 17 巻 1 号 p. 37-44
    発行日: 1970/04/15
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    東支那海で漁獲されるシロワニOdontaspis taurus (Rafinesque) の歯の形質における変異は顕著である.側尖頭の有無と歯の大きさの全長に対する比は成長につれて変化するし, また, 個体変異も大きい.各歯型ごとの歯数, とくにミズワニ属の分類で重要な前方歯数と中間歯数にはかなりの変異がみられる.このように, 歯の形質における変異は同種内でも著しいので, 上述の形質はミズワニ属においては種の特性になりえないことが解った.
  • 五十嵐 清
    1970 年 17 巻 1 号 p. 45-50
    発行日: 1970/04/15
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    エゾトミヨPungitius tymentisは肩部と尾柄部にだけ鱗板のあるsemiarmata型の側線鱗を有し, 鱗板の退行化が著しく, 側隆起線は僅かに枝分れしているだけである.エゾトミヨの鱗板は全長23mmで初めて尾柄部に現われるが, トミヨ属のなかの何れの種よりも鱗板の出現がおそい.全長32mmに成長すると肩部に数個の鱗板が現われるが, 成魚にいたっても未発達のままの痕跡鱗である.鱗板の形成はイバラトミヨ, ムサシトミヨと同様に稚魚の早い時期に止まり, そのまま成熟して幼態成熟となる.鱗板の出現順序や基本的構造はイバラトミヨ, ムサシトミヨと類似しており, これらと系統的に近縁なことが推察できるが, 鱗板の他に背鰭棘の形質などに於て異なり, 樺太, 北海道の限られた分布域で陸封化にともない分化し, エゾトミヨ特有の形態を示すに至ったと思われる.エゾトミヨをイバラトミヨの一亜種とするより, それに近縁な独立種とすることが妥当と考えられる.
  • Bruce E.Higgins, 森慶 一郎, 上野 輝弥
    1970 年 17 巻 1 号 p. 51-53
    発行日: 1970/04/15
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    ムカシクロタチ (新称, Scombrolabrax heterolepis) はクロタチカマス科やサバ科の原始的な祖先に近い型の魚とされているが, これまでに大西洋の2地点ならびにメキシコ湾から報告されているにすぎない.筆者等は印度洋ならびに太平洋の15地点以上の場所から37尾の標本を得たので, その分布を発表する.これらの標本のうち28尾はマグロ類およびカジキ類の胃中から発見されたものである.これらの記録から本種はインド洋では南緯10度附近, 太平洋では北緯21度から南緯11度に至る広い範囲に分布していることがわかった.
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