魚類学雑誌
Online ISSN : 1884-7374
Print ISSN : 0021-5090
ISSN-L : 0021-5090
サンゴ礁におけるクマノミのグループ間移動と配偶者の獲得戦術
服部 昭尚
著者情報
ジャーナル フリー

1994 年 41 巻 2 号 p. 159-165

詳細
抄録
雄性先熟魚であるクマノミのグループ構造と, 個体のグループ問移動および雌雄性を, 沖縄県瀬底島の裾礁において1988年6月から1989年11月まで観察した.87m×373mの調査域に, 約60のグループがまばらに分布し, 成魚のグループは人型のイソギンチャクを所有していた.成魚のグループ (約20) は一組の繁殖ペアと2-3個体の未成魚・幼魚から構成されていた.この他, 未成魚と幼魚あるいは幼魚だけからなるグループも多数見られた.サンゴ礁のクマノミはグループ間をほとんど移動しないと信じられてきたが, 今回71例ものグループ間の移動が観察された.移動個体のほとんどは未成魚であり, 未成魚は成魚ペアの存在下では繁殖できないので, 単独の成魚や他の未成魚とペアを形成するために移動したと考えられる.大型のイソギンチャクで未成魚同士がペアを形成した場合, 大きい方が雌になり, 小さい方が雄になった.このような未成魚の雌雄同体性は, 繁殖場所が不足している状況では, 繁殖をなるべく早く開始できる点と, ペア当りの一回の産卵数を多くできる点で個体にとって有利であると推察された.さらにこの有利性はイソギンチャクの密度とは無関係であることも示唆された.
著者関連情報
© 日本魚類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top