原子力災害と自然災害との間には,人的・物的損失のありかた,心理的受容,コミュニティの凝集性,様々なタイプのスティグマ,メディアの影響など,数多くの点で大きな相違が存在する.福島においても,東日本大震災による津波・地震の影響は非常に大きなものであったが,引き続いて引き起こされた原子力発電所事故の住民への影響はさらに増して多大であったと考えられる.そうした影響は,心理的外傷反応にとどまらず,うつ病やアルコール乱用といった慢性的な精神障害をもたらし,それらによって自殺といった自己破壊的行動さえも引きこされている可能性がある.こうした精神医学的問題に加えて,福島の避難者も含めた住民は,放射線の影響に関する一般大衆のスティグマやセルフ・スティグマにも晒されている.とりわけ遺伝に関する放射線影響についてのネガティブな認知は,避難住民の抑うつ症状と強く関連している.さらに,福島で復興事業に従事する就労者に強い疲弊と様々なタイプの抑うつ症状が出現していることが報告されており,彼らに対するより密接なケアや治療が現在求められている.現在福島で展開しているケア・システムを維持・発展するためには,県外も含めた異なる支援資源間の協力が重要である.