耳鼻咽喉科免疫アレルギー
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総説
上気道炎症に対する新たな局所治療薬としてのヘパリンの可能性
小河 孝夫清水 志乃戸嶋 一郎神前 英明清水 猛史
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2011 年 29 巻 3 号 p. 221-227

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抄録

近年,好酸球性副鼻腔炎などの難治性上気道炎症の病態形成に凝固線溶系が深く関与していることが明らかになり,凝固線溶因子を標的とした治療法の開発が注目されている。一方,ヘパリンは抗凝固作用を有し,臨床上も血栓症治療などに古くから使用されてきたが,同時に抗炎症作用も有することが知られている。ヘパリンは陰性荷電とその特異な分子構造により炎症過程における多くの生理活性物質と結合することが作用機序として考えられている。実際の臨床においても,気管支喘息,炎症性腸疾患,熱傷などで有効性が報告され,様々な疾患モデル動物においてもヘパリンの抗炎症作用が報告されているが,鼻副鼻腔疾患に対する検討はほとんどない。筆者らはヘパリンの持つ抗凝固作用と抗炎症作用の両者に期待して,難治性上気道炎症に対する治療薬としての可能性を検討している。
ラット鼻粘膜炎症モデルを使用した未分画ヘパリンや低分子ヘパリンの点鼻投与の検討では,LPS刺激やアレルギー性炎症により生じたラット鼻粘膜の杯細胞化生や粘液分泌,炎症細胞浸潤はヘパリン投与により有意に抑制された。培養気道上皮細胞を用いた検討でも,TNF-α刺激や好酸球性細胞株との共培養によるムチンやIL-8分泌を有意に抑制した。これらの結果より,ヘパリンはステロイド以外に有効な薬物療法のない好酸球性副鼻腔炎などの難治性上気道炎に対する新たな局所治療薬としての可能性が期待できる。

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© 2011 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会
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