2019 年 10 巻 2 号 p. 60-67
北海道の60頭を飼養する1酪農場において,2017年11月に成牛17頭を含む計23頭(38.3%)が重篤な呼吸器症状を発症し,4頭が死亡または予後不良として安楽殺処分された.成牛45頭は通常繋ぎ方式で飼養され,牛舎内に分娩房,屋外にパドックが併設されていた.最初の発症は11月14日であり,3頭が発熱と呼吸数増加,左右肺前葉領域での著しい呼吸音増強を呈した.その後,同様の症状を示す罹患牛は飼料給餌経路に沿う形で牛舎全体に広がり,新たな発症は21日まで続いた.いずれの発症牛にもセファゾリンを第一次選択薬として投与したが,臨床効果は全く認められなかった.その後の鼻汁等の細菌学的検査によりMannheimia haemolytica 血清型1型が分離され,薬剤感受性を示したカナマイシンやマルボフロキサシンを投与したところ,症状は徐々に改善した.発症期の血清学的検査では牛RS ウイルスの抗体価が著しく上昇していた.死亡牛の主要な肉眼的病理所見は線維素性胸膜肺炎であり,左右肺のすべての肺葉で胸膜との癒着,後葉を中心とした間質性肺気腫が広範囲に認められた.以上の所見より,本事例は繋ぎ牛舎における成乳牛を中心とした牛RS ウイルスとM. haemolytica の混合感染によるまれな呼吸器病多発事例であり,分離されたM. haemolytica 血清型1型はこれまでの報告とは異なりアンピシリンに耐性,セファゾリンに低感受性であった.