産業動物臨床医学雑誌
Online ISSN : 2187-2805
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10 巻, 2 号
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総説
  • 岩野 英知, 藤木 純平, 中村 暢宏, 権平 智, 樋口 豪紀
    原稿種別: 総説
    2019 年 10 巻 2 号 p. 53-59
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

     薬剤耐性菌の蔓延に対して様々な対応策が考えられて実行されているが,効果的な打開策は見いだされていない.そういう状況の中,古くから東欧諸国などで実用化されてきたファージセラピーが切り札として注目されている.米国では,多剤耐性アシネトバクターの感染症による危篤状態から,ファージセラピーにより復帰したパターソン症例以降,ファージセラピーの実用化への動きが一気に活発化している.本論文では,ファージセラピーの概要を解説し,パターソン症例を例にとりながら,ファージセラピーの実用化に向けた課題を整理し,また,獣医療への応用について述べることとする.

原著
  • 秋吉 珠早, 久保田 高慶, 佐藤 綾乃, 村田 亮, 松田 一哉, 加藤 敏英
    原稿種別: 原著
    2019 年 10 巻 2 号 p. 60-67
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

     北海道の60頭を飼養する1酪農場において,2017年11月に成牛17頭を含む計23頭(38.3%)が重篤な呼吸器症状を発症し,4頭が死亡または予後不良として安楽殺処分された.成牛45頭は通常繋ぎ方式で飼養され,牛舎内に分娩房,屋外にパドックが併設されていた.最初の発症は11月14日であり,3頭が発熱と呼吸数増加,左右肺前葉領域での著しい呼吸音増強を呈した.その後,同様の症状を示す罹患牛は飼料給餌経路に沿う形で牛舎全体に広がり,新たな発症は21日まで続いた.いずれの発症牛にもセファゾリンを第一次選択薬として投与したが,臨床効果は全く認められなかった.その後の鼻汁等の細菌学的検査によりMannheimia haemolytica 血清型1型が分離され,薬剤感受性を示したカナマイシンやマルボフロキサシンを投与したところ,症状は徐々に改善した.発症期の血清学的検査では牛RS ウイルスの抗体価が著しく上昇していた.死亡牛の主要な肉眼的病理所見は線維素性胸膜肺炎であり,左右肺のすべての肺葉で胸膜との癒着,後葉を中心とした間質性肺気腫が広範囲に認められた.以上の所見より,本事例は繋ぎ牛舎における成乳牛を中心とした牛RS ウイルスとM. haemolytica の混合感染によるまれな呼吸器病多発事例であり,分離されたM. haemolytica 血清型1型はこれまでの報告とは異なりアンピシリンに耐性,セファゾリンに低感受性であった.

  • 野嵜 敢, 伊藤 めぐみ, 村越 ふみ, 滄木 孝弘, 芝野 健一, 山田 一孝
    原稿種別: 原著
    2019 年 10 巻 2 号 p. 68-72
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

     クリプトスポリジウム感染症は生後1 カ月以内の子牛に水様性下痢を引き起こす.クリプトスポリジウム症に有効な治療薬は存在しないが,子牛の下痢症に対する卵黄抗体(IgY)製剤が市販されており,これに抗クリプトスポリジウムIgY が含まれる.そこで本研究では,クリプトスポリジウム症に対する本製剤の効果を血清中および糞便中IgY 動態から検討した.1 酪農場の子牛12 頭を対照群(通常哺乳),初乳投与群(初乳に製剤60g を混合して投与),2 週投与群(初乳に製剤60g,生後2 週間まで生乳に製剤10g/日を混合して投与)の3 群に分けて供試牛とした.試験期間は生後21日目までとし,血液および糞便を採取した.すべての供試牛がCryptosporidium parvum に感染し,水様性下痢を発症した.糞便1g あたりの平均オーシスト数は2 週投与群が,初乳投与群および対照群より有意に少なかった(p<0.05).また,血清および糞便中の総IgY 濃度および抗クリプトスポリジウムIgY 濃度は,初乳投与群および2 週投与群ともに高値を示し,糞便中の総IgY 濃度は生後5 ~14 日目までは2 週投与群で初乳投与群よりも有意に高かった(p<0.05).糞便中の抗クリプトスポリジウムIgY 濃度は生後5 および7 日目に2 週投与群で初乳投与群よりも有意に高かった(p<0.05).本製剤の2 週間の連続的な経口投与はクリプトスポリジウム感染子牛のオーシスト排出量を減少させたことから,抗クリプトスポリジウムIgY はクリプトスポリジウム症予防に有用である可能性が示唆された.

症例報告
  • 森山 咲, 千葉 汐莉, 上坂 花鈴, 串間 宏充, 渡邉 謙一, 堀内 雅之, 古林 与志安, 猪熊 壽
    2019 年 10 巻 2 号 p. 73-77
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

     雌のホルスタイン種子牛が,76 日齢時に起立不能,意識混濁および痙攣を呈した.大脳皮質壊死症を疑い,ビタミンB1 投与,リンゲル液,生理食塩液および25%ブドウ糖液を輸液したところ症状は改善した. しかし,130 日齢時にはビタミンB1 投与中も神経症状を呈した.血清アンモニア濃度と胆汁酸濃度は、それぞれ490μg/dℓと153.2μM で,いずれも高値を示し,また哺乳2 時間後の胆汁酸濃度が上昇した.さらに,肝臓超音波検査では,後大静脈に並走する異常血管およびその合流地点に乱流を認めたため,先天性門脈体循環シャント(portosystemic shunt;PSS)による肝性脳症を強く疑った.病理解剖により,肝外性のPSS が確認された.また,病理組織学的検索では中枢神経の白質に空胞形成が認められた.以上のことから,本症例はPSS による肝性脳症と確定診断された.牛ではPSS の発生は極めてまれだが,大脳皮質壊死症を疑わせるような神経症状を呈する子牛では,鑑別診断リストにPSS を加えるべきであると考えられた.

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