2016 年 7 巻 1 号 p. 20-23
呼吸器病に罹患した黒毛和種子牛における血清亜鉛濃度の調査を行った.供試牛は,鹿児島県内の1農場において飼養されていた去勢子牛20頭で,体温39.7℃以上,鼻汁および発咳など呼吸器病症状を示した初診日の子牛10頭を呼吸器病群,臨床的に健康であった子牛10頭を対照群として比較した.その結果,血清アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ,γ-グルタミルトランスフェラーゼ,尿素窒素,クレアチニン,総蛋白,アルブミン,グロブリン,総コレステロール,トリグリセリド,カルシウム,リンおよびマグネシウム濃度の平均値は両群に有意な差は認められなかった.いっぽう,血清亜鉛濃度の平均値は,呼吸器病群68.1μg/dℓ,対照群106.7μg/dℓであり,呼吸器病群では対照群と比較して有意に低値であった(p<0.01).これらの結果から,呼吸器病症状を呈した黒毛和種子牛は,炎症状態であるために血液中の亜鉛を消費した,あるいは,給与された亜鉛の吸収不足などにより呼吸器病発症前にすでに亜鉛濃度が低値であったなどの可能性が考えられた.今後,呼吸器病症状を示す子牛における血清亜鉛濃度減少の機序を明らかにする必要があると考えられた.