9カ月齢のホルスタイン去勢牛が食欲廃絶,乏尿および疝痛様症状を呈し,尿中からリン酸アンモニウムマグネシウムの結石が検出されたことから尿石症と診断された.対症療法を行ったところ,症状の増悪はないが食欲や全身状態の顕著な改善が得られないまま経過した.1カ月後,発熱,脱水症状,乏尿および腹囲膨満が認められ,尿路閉塞に伴う膀胱破裂が疑われたが,血清中クレアチニンおよび尿素窒素濃度の上昇など,膀胱破裂に特徴的な血液生化学的所見は認められなかった.確定診断に至らないまま予後不良と判断され,安楽殺された.病理解剖の結果,膀胱尖が小さく開口し,その先に腹腔の右側を占拠する巨大な腫瘤が認められた.
膀胱尖部の炎症性反応が乏しいことなどから,腫瘤のうち,膀胱と連絡する部分は遺残した尿膜管と診断された.また,腫瘤と周辺組織との癒着が広範囲にわたっていることから,尿膜管が何らかの原因により破綻し,尿が腹腔内に漏出したものの,大網に被覆された結果,腹膜炎が限局性にとどまり,巨大な嚢胞を形成するに至ったと推察された.
尿石症による尿路閉塞や膀胱破裂が疑われる症例において特徴的な血液生化学的所見が得られない場合は,月齢が進んだ個体であっても,尿膜管憩室やそれに起因する限局性の腹膜炎を類症鑑別に加える必要があると考えられた.