法と心理

アスペルガー障害は従来の刑事司法ではあまり知られてこなかった。しかし、近年アスペルガー障害を有するとされる被告人に対する量刑は学術的に見ても社会的に見ても広い関心を集めている。このような状況を背景に本研究は、(a)アスペルガー障害を有するとされる被告人と、そうでない被告人ではどちらがより重い量刑を求められるのか、および(b)被告人のアスペルガー障害の有無と量刑判断はどのような要因によって媒介されるのかを探索することを目的とした。分析の結果、(a)アスペルガー障害を有するとされる被告人はそうでない被告人よりもより軽い量刑が求められることが示された。また、(b)再犯可能性、社会秩序への脅威、非難、責任を媒介変数とした媒介分析を行ったところ、傷害致死罪条件における社会秩序への脅威のみが被告人のアスペルガー障害の有無と量刑判断を有意に媒介することが示された。以上の結果が得られた理由およびその実践上の示唆を論じた。

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刑事事件・被疑者取調べにおける自白の任意性評価が、取調べ映像の撮影焦点の違いによって変化することが先行研究によって示されてきた。とくに被疑者に焦点をあてた映像を見た場合、被疑者へ言動を内的帰属し、自白の任意性が高く評価される。この撮影焦点の違いによって評価に偏りが生じる現象はカメラ・パースペクティブ・バイアス(CPB)と呼ばれる。これまで CPB は知覚による現象と考えられてきたが、認知要因による可能性も指摘できる。本研究では、撮影焦点の異なる2人の日常会話映像を用いて、先行研究で CPB が確認された強制性評価と帰属評価が確認できるかについて検討した。その結果、撮影焦点の違いによる強制性評価への影響は確認されなかった。しかし、人物の言動の帰属は、両者とも横顔を正面に向けている場合(EF)には偏りがみられないが、一方の人物のみ顔を正面に向けている映像では顔を正面に向けている人物の言動がより外的に帰属された。対等な2人の日常会話場面においても撮影焦点の違いによる CPB が生じたことから、取調べを撮影する際にはその焦点に注意すべきことが示された。

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学会の動向を把握することは、当該学会の他学会との関係における位置づけを把握し、今後向かうべき方向性を示唆するという点で重要な課題である。法と心理学会について、このような試みは既に行われている。しかし、当該先行研究が分析の対象とした研究の時間的範囲は 2000年から2008年であり、その後の動向は把握されていない。そこで本研究は、その後(2009年~ 2021年)に発表された研究(雑誌論文、学会報告等)412件を対象に、(1)各研究テーマの頻度、(2)先行研究で対象とされた時期の研究との差を検討した。分析の結果、(1)「目撃記憶・証言・供述」に該当する研究が73件と最も多く、「裁判員・裁判官の判断研究」がそれに続くこと、(2)「裁判員・裁判官の判断研究」、「対象の特性・性質・性格」、「特定カテゴリの事件・事故」に該当する研究は増加していたのに対し、「ガイドライン」に該当する研究は減少していたことなどが示された。

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