法と心理
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裁判に関わる心理学者のための倫理規範の提案
後藤 昭徳永 光
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ジャーナル オープンアクセス

2004 年 3 巻 1 号 p. 54-67

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抄録

心理学者が訴訟当事者の依頼に応じて、具体的な事件について研究し、意見を述べることがある。このような場合、科学者としての行動原理と、依頼者の期待との間に矛盾が生じる可能性がある。このような矛盾に対処しつつ、心理学者の意見が裁判所からも信頼を得られるようにするために、心理学者は一定の倫理規範を持つ必要がある。その内容として、例えば次のような項目が考えられる。(1)判断を求められた問題について答える専門家として、自分がふさわしいと考える場合にだけ、受任する。(2)予備的な検討の受任と、意見書の提出の受任とを区別して、前者を先行させる。(3)利益相反の立場に陥ることを避ける。(4)判断対象の問題を明確に限定し、それ以上のことを言わない。(5)依頼者の勝訴を条件とする成功報酬の約束を受けない。(6)科学者として、誠実に判断する。(7)依頼者その他の事件関係者の秘密を尊重する。(8)裁判所で証人となる場合には、訴訟法上の義務に従う。(9)裁判所に意見書を提出した場合、同僚研究者の批判に曝すために、関係者の秘密の利益に配慮しつつ、その内容を公表するように努める。アメリカ合衆国の関係学会が公表している倫理規範は、このような問題を考えるために、参考となる。この種の倫理規範の目標をまとめれば、訴訟当事者の需要に応じることと、科学の客観性とを両立させることである。

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© 2004 法と心理学会
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