抄録
歯科治療を成功させるためには一つずつのテクニックを確実に行うことも重要であるがそれ以上に大切なことは術前の診断を的確に行い,治療計画をしっかりと立案するということである.
日本の歯科界では「診断をやっています」と言うがそれは保険診療に基づいた経験上の診断であり,本当の意味での診断はほとんどなされていないと考える.
私が大学を出た頃はインプラントも CAD/CAM もなかったが今はそういった時代ではない.
歯列が正しく,インプラントでしっかりと噛めて,審美修復が出来ないと患者さんは満足しない,という時代になったにも関わらずまだまだ歯列不正のままにパーシャルデンチャーが入り色の悪い補綴物が存在していると思われる.
補綴を行う私としては歯列さえ整っていれば補綴は難しくはないが多くの症例で歯列不正が存在し,患者側もできれば矯正治療はしたくない,という状況に数多く出会うことがある.
しかし,やはり歯列が整っていなければ何をしても崩壊への道をたどっていくことは明白である.
咬合,ペリオ,エンド,インプラント,矯正,補綴,をバラバラに考えるのではなくそれらの事柄を総合的にとらえて診断を行い,治療を終えることが目的なのではなく治療が終わってからいかに長期に渡って安定した状態を保つのかということを目的に考えていただきたいと思う.
今回は臨床例を通じて治療を行う前に何を考えるのか,治療に入れば何をしなければいけないのかということを中心にこれからの日本の歯科界の進むべき道を一緒に考えていきたいと思う.