抄録
う蝕も歯周病もバイオフィルムの高病原化により発症する.バイオフィルムの高病原化をdysbiosisと呼ぶ.dysbiosisは,バイオフィルムを取り巻く 栄養,温度,pH,嫌気度などの環境変化によって悪玉菌(う蝕原菌または歯周病原菌)が活性化し増殖し,バイオフィルムの病原性を高める現象のことである.dysbiosisによって,バイオフィルムは安定した状態(symbiosis)から高病原性状態へとシフトする.その結果,バイオフィルムの攻撃力と歯・歯周組織の防御力の均衡が崩れ,う蝕と歯周病が発症する.
う蝕のdysbiosisは複数の酸産生菌に対して,発酵性糖質(砂糖,ブドウ糖,果糖,乳糖,調理したデンプン)が与えられることにより始まる.また,歯周病のdysbiosisは,古くなったバイオフィルム内で始まる細菌同士の栄養共生などから始まり,歯周ポケットからの出血によりバイオフィルムにタンパク質と鉄分が与えられ本格的に起こる.う蝕と歯周病の予防と治療はdysbiosisの除去に他ならない.