2022 年 63 巻 4 号 p. 248-254
骨格性下顎前突症に対する外科的矯正術は,下顎骨を後方に移動することで上下顎の位置関係を改善し,咬合と顔貌を含めて審美性を改善することを目的としているが,咬合の変化に伴う舌位置の変化が構音に及ぼす影響についての知見は少ない.今回は外科矯正術前後における構音時の舌と口蓋の接触様態の変化を,エレクトロパラトグラフィ(以下EPG)を用いて観察した.対象は骨格性下顎前突症を呈した22歳の男性2名,発話サンプルは歯茎音を含む[ata]と[asa]である.結果,術前の接触位置は両症例とも前方化していたが,術後2ヵ月で適正な位置に変化していた.これらのEPGの接触様態は術後1年経過後も維持されていた.また舌と口蓋の接触の前後方向の偏りを示すCOG値は,症例1の/t/以外では術後増加した.骨格性下顎前突症に対する外科的矯正術による上下顎の位置関係の変化と前歯部の咬合の変化は,構音時の口蓋と舌の接触様態に影響を及ぼすことが示唆された.