きわめてまれな疾患である先天性無舌症女児を継続的に観察し, 9歳時における構音を語音発語明瞭度検査とビデオ録画による観察で評価し, 側方X線ビデオ, エレクトロパラトグラフ, 音響解析装置を用いて多面的に調査して以下の知見を得た.
1) 会話明瞭度は良好であったが, 構音を詳細に検討すると舌欠如による構音障害が明らかであった.
2) 舌の欠如を母音と軟口蓋音では口腔底の膨隆で代償し, 両唇音と軟口蓋音の一部を含む多くの子音では下唇で代償していた.下唇による代償では, 音によって上顎歯茎に接触する面積・形態を変化させていた.
3) 代償構音は, 乳児期の早期に獲得した嚥下運動としての口腔底の膨隆を構音に利用できたこと, 上下顎の位置関係から下唇を上顎歯茎に接触しやすかったという本症例独自の口腔の形態と機能があったために獲得できたと思われた.