失読, 失書の症例について, その症状と言語訓練の経過から, 障害メカニズムについての検討を行った.症例は, 52歳, 男性, 右利きで, 損傷部位は左側頭後頭葉内側面皮質皮質下領域であった.失読および失書は, 仮名は軽微で, 漢字に顕著であった.読字, 書字ともに, 類形的誤りと類音的誤りが頻出した.それぞれの障害水準を山鳥の漢字処理の仮説モデルに対応させると, 読字における類形的誤りは「視覚系から文字心像への過程」で, 類音的誤りは「視覚系の単語範疇化過程から意味野への過程」で生じたと考えられた.また, 書字における類形的誤りは「書字素実現の過程」で生じ, 類音的誤りは「漢字文字心像系列選択の過程」で生じたと考えられた.本症例の失読および失書は, それぞれ2つの独立する障害機序に基づく障害であることが示唆された.