左中心領域下部の梗塞性病変で, 発症初期に著明なプロソディーの障害を呈し, 急速に改善した症例を経験した.発話障害の特徴は, 「歪み」「置換」など構音の障害はわずかであったが, 「音・音節の途切れや引き伸ばし」「音節の繰り返し」「発話速度の低下」「抑揚の乏しさ」などプロソディーの障害が明らかであった.さらに自発話も音読・復唱と同程度に障害され, 自発話と音読・復唱に乖離はみられず, 従来から知られている発語失行の特徴とは異なっていた.構音の障害に比べプロソディーの障害が著明であった純粋発語失行例には荒木ら (1991) の両側中心前回下部病変による症例がある.われわれの症例と荒木らの症例から, 左中心前回下部が発話のプロソディーに関与することが示唆された.