音声言語医学
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39 巻, 3 号
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  • 重野 純
    1998 年 39 巻 3 号 p. 267-273
    発行日: 1998/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    マルチモーダルな音韻知覚に個人差が与える影響について, マクガーク効果の実験を3週間の時間間隔をあけて2回行って調べた.実験は220名の被験者に対して, 日常生活場面の知覚条件に似た環境のもとで行い, 視聴覚情報が矛盾する刺激について, 視覚情報による影響の程度と判断の一貫性について調べた.その結果, 被験者の判断分布は非常に広い範囲―影響を強く受ける者から全く受けない者まで―にわたること, 判断傾向は一貫していること, などの傾向が認められた.実験結果から, マクガーク効果の実験の遂行や結果の解釈には, 個人差などの被験者側の要因を考慮することが重要であることが示唆された.
  • 金子 真人, 宇野 彰, 春原 則子, 加我 牧子
    1998 年 39 巻 3 号 p. 274-278
    発行日: 1998/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    仮名と漢字に特異的な読み書き障害を示す学習障害児1例に関して, 五十音表を積極的に活用する訓練を行った.その結果, 仮名の読み書き障害に改善が得られたと思われたのでその訓練経過について報告した.本例は約1年間, 家庭と学校で仮名1文字の読み書きを学習したが習得できなかった.訓練は五十音表の写字と五十音表の自発書字, および絵の名前の自発書字を行った.訓練開始後仮名1文字の書字成績と五十音表の書字正答率が2ヵ月以内に有意に上昇し, 五十音表の書字所要時間の短縮と各行の書字開始までの反応時間の減少を認めたことから, 五十音表を積極的に活用することで仮名書字が正確で早く学習されたと考えた.また, 仮名1文字と音とを直接一対一対応させる学習方法よりも五十音表を用いた迂回路を活用する方法の方が本症例にとって有効であったと考えられた.
  • 織田 千尋, 岡崎 恵子
    1998 年 39 巻 3 号 p. 279-285
    発行日: 1998/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    ろう者の音声と感性情報との関係を調べるため, ろうの成人女性3名と健聴の成人女性3名に悲しみ・喜び・怒りの3感情でシナリオを演じてもらい, ろう者の場合は手話に伴ってでてきた音声を, 健聴者の場合は実際に台詞を読んだ時の音声を録音し音響分析にかけた.パラメータとして選んだのは起声部のFO (基本周波数) , FOレンジ, 発話長, FOの動きである.その結果FOレンジとFOの動きは両群で類似した傾向が観察された.またフィルタをかけた両群の音声に対して100名の評価者による聴取実験を行い, おのおのの音声が意図された感情通りに受け取られているかどうかを調べた.聴取実験の結果, 両群の音声とも正確に受け取られる確率が誤って受け取られる確率よりも高かった.音響・聴取両実験結果から, ろう者の音声には感性情報が含まれている可能性が高く, また, FOレンジとFOの動きが感情の動きを最もよく表すパラメータであることが示唆された.
  • 上原 利江子, 村西 幸代, 河村 満
    1998 年 39 巻 3 号 p. 286-290
    発行日: 1998/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    左中心領域下部の梗塞性病変で, 発症初期に著明なプロソディーの障害を呈し, 急速に改善した症例を経験した.発話障害の特徴は, 「歪み」「置換」など構音の障害はわずかであったが, 「音・音節の途切れや引き伸ばし」「音節の繰り返し」「発話速度の低下」「抑揚の乏しさ」などプロソディーの障害が明らかであった.さらに自発話も音読・復唱と同程度に障害され, 自発話と音読・復唱に乖離はみられず, 従来から知られている発語失行の特徴とは異なっていた.構音の障害に比べプロソディーの障害が著明であった純粋発語失行例には荒木ら (1991) の両側中心前回下部病変による症例がある.われわれの症例と荒木らの症例から, 左中心前回下部が発話のプロソディーに関与することが示唆された.
  • 北野 市子
    1998 年 39 巻 3 号 p. 291-297
    発行日: 1998/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    FISH法による染色体分析によってCATCH22と診断された14例の言語の特徴について分析した.これらの患児のうち心疾患を伴うものは11例, 特異顔貌を伴うもの13例であった.
    口蓋咽頭の異常については, 14例のうち4例に粘膜下口蓋裂 (SMCP) , 3例に先天性鼻咽腔閉鎖機能不全症 (CVPI) , 1例に軽度の口蓋垂裂を認めた.SMCPのうち1例は鼻咽腔閉鎖機能が良好なため, 手術を行っていない.他の3例には全例咽頭弁形成術を施行したが, 鼻咽腔閉鎖機能が改善したのは2例, この2例のうち構音障害が改善したのは1例であった.CVPIの3例も全例に咽頭弁形成術を施行されているが, 鼻咽腔閉鎖機能が改善したのは2例, 鼻咽腔閉鎖機能不全に由来する構音障害が改善したのは1例であった.
    口蓋咽頭の異常が認められなかった6例のうち, 2例は言語発達途上で一過性の声門破裂音を呈したが自然改善した.1例は咬合異常に起因すると思われる口蓋化構音を示した.
    CATCH22の言語症状は多様であり, 鼻咽腔閉鎖不全に対する術後成績にもばらつきがみられた.
  • ―自閉症児における模唱の発生頻度と言語発達―
    岩田 まな, 佃 一郎
    1998 年 39 巻 3 号 p. 298-302
    発行日: 1998/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    われわれは自閉症児の言語発達を, 前言語段階から縦断的に追跡し, 報告してきたが, 言語を獲得する過程で, echolaliaではない「模唱」が生じる場合があること, 言語発達が良好な自閉症児ではこの模唱の発生頻度が高く, 不良な自閉症児では低い傾向があることに気づいた.そこでこの仮説を確かめるために数語以上のspeechを有する, 言語発達途上にあると思われる自閉症幼児16名についてセラピストとの自由な会話を録音して分析し, 模唱の発生頻度を検討した.
    その結果言語発達が良好な自閉症児群では模唱の発生率が平均10.3%, 不良な自閉症児群では平均2.4%と有意な差がみられた.これは大人からの言語刺激を受信する能力の差によるものと考えられた.したがって模唱の発生頻度によって後の言語発達を予測することが可能だといえる.
  • 加我 君孝
    1998 年 39 巻 3 号 p. 303-304
    発行日: 1998/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
  • ―言語臨床の観点から―
    城間 将江
    1998 年 39 巻 3 号 p. 305-314
    発行日: 1998/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    人工内耳装用成人65名, 小児8名の語音知覚検査結果に基づき, 言語臨床の観点から聴覚機能の再学習や可塑性, および聴覚情報の処理メカニズムについてRetrospectiveに検討した.人工内耳装用による語音の知覚率は個人差が著しく, その個体要因として, 失聴時期と失聴期間が関与することが示唆された.一般に失聴時期が早く失聴期間が長いと言語知覚率は劣化する傾向にあったが, 長期間の失聴でも聴覚の再学習は可能であることが示唆された.ところが, 小児は, 先天性でも3歳前後の手術症例はオープンセットの語音知覚が可能になり, 幼児の脳の可塑性の高さが示唆された.言語習得期での失聴児は, 失聴期間が2年以内の症例は聴覚機能の再学習が早かった.なお, 聴覚情報の音声処理機構については, 成人はトップダウンの概念処理が主であった.小児はボトムアップ処理が先行し, 言語獲得に伴いトップダウン処理併用がみられた.
  • ―その可塑性―
    菅澤 正
    1998 年 39 巻 3 号 p. 315-322
    発行日: 1998/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    コルチ器にもシナプス再生は認められるが, シナプスの新生, 脱落を伴う反応の変化は認めない.可塑性を広義に細胞, シナプスレヴェルの反応性変化を伴うneuroneの反応増大, 抑制と定義すれば, コルチ器内にはさまざまな調節系が存在しplasticityに関与している.調節物質候補として, 遠心性線維神経伝達物質のアセチルコリンおよびATPがあげられ, いずれも細胞内カルシウム濃度の上昇を通じて有毛細胞の感度, グルタミン酸の分泌調節などを司っている.これらの因子は, 支持細胞の吸収あるいは支持機能を能動的に調節している可能性がある.
    Neurotrophinにはラセン神経節細胞保護作用が認められ, コルチ器瘢痕形成抑制が認められることから, 人口内耳挿入前の移植環境維持の観点から臨床応用が探られている.ラセン神経節細胞維持の観点では, 基礎実験データからみて失聴後早期の人工内耳挿入が望ましい.
  • 工藤 基
    1998 年 39 巻 3 号 p. 323-328
    発行日: 1998/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    脳のもつ可塑性は大きくて測り知れないほどである.人工内耳の出現は当初予想もしなかったような聴覚―言語―音声機能の改善をもたらし, むしろ基礎的研究が遅れをとってそのメカニズムの解明においついていない現状である.本論文では1) 脳の個体発達にともなう可塑性, 2) 上位脳 (中脳・視床・大脳皮質レベル) と下位脳幹 (延髄・橋レベル) での発達と可塑性, 3) 脳の系統発生と進化にともなう可塑性について著者の最近の研究をまじえて考察した.
  • 久保 武, 山本 好一, 井脇 貴子
    1998 年 39 巻 3 号 p. 329-333
    発行日: 1998/07/20
    公開日: 2010/06/22
    ジャーナル フリー
    人工内耳術後の言語聴取能と, 電気聴性脳幹反応 (EABR) の閾値 (T) , 振幅勾配 (G) との相関を調べた.その結果術後1ヵ月の時点では, 言語聴取能とGとの間に有意な正の相関がみられた.しかし, 3ヵ月では, 相関はなくなっていた.この結果から, ラセン神経節の残存程度は初期の言語習得に関係する重要な条件と考えられた.
    中枢聴覚系における可塑的変化をみるために, 事象関連電位 (P300) と言語聴取能との関係を調べた.P300は二種の異なる周波数の音刺激に対する弁別課題によって得られるもので, 聴覚野における音の認知能力を反映するものと考えられる.この結果, 術後長期を経過した時点においても両者の間に有意な相関がみられた.これらの結果より, 音入れ後早期の聴覚経路におこる電気聴覚への適応には, 内耳のラセン神経節が関与しており, 長期の適応には高次中枢の関与が大きいことが示唆された.
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